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[コメント] シンドラーのリスト(1993/米)

ナチやユダヤ人に対して考えさせられたという感想よりも、 ただ釈然としない曖昧さが残る。ちょっと、ヨーロピアンな映像に 騙されてませんか?(辛辣でゴメン)
Linus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







実話を映画化にする場合、感動できるモノ、良い話を選ぶのが 前提だろう。見る側だって、暗黙の了解で、感動しちゃうんだろうな、 と期待して観賞することが多い。だから、シンドラーのリストという 映画は、絶対に良いハナシになる筈だった。…しかし、見終わった感想は あまり釈然としないのである。

まずシンドラーという主人公に感情移入できない。お金欲しさに、 格安の人件費のユダヤ人に鍋作りをさせた。やがて計理士の手腕もあって、 親父よりも大きな会社の社長となる。ウハウハ金儲けができる。 だが、待てよ。計理士だって、ユダヤ人だ。ナチの政策は間違ってないか?  非人道的じゃないか? と疑問を持ち、ユダヤ人救出に乗り出す。 だが、ラストでこの男は破産する。戦後は事業が失敗し離婚もするという。 こんな善意の人なのに、ただの敗残者。いいのかいそれで?

思うに善意という行為はビミョーである。戦争中のユダヤ人も死と隣り あわせだったかもしれないが、今だって、沢山の人が食べる物に 困ってるし、地雷で手足を吹き飛ばされている。そういえば、インドに 旅行した時のハナシを出してしまうが、デリーでタクシーに乗っていた時、草むらから、動物みたいなモノが飛び出してきた。見ると、両足を膝で 切断された少年(小学校低学年くらい?)が手を使って歩いてくる。その子供は、私が乗っているタクシーをどんどん叩き、金をくれとせびってきた。 私は初めて見るその不具者の少年に言葉を失った。見て見ぬふりをして、お金なんて1ルピーもあげなかった。

この話を、友達に話したところ、インドやタイなどでは、三男や 四男(一家の働き手は長男や次男)の手足をわざわざ切断するそうである。 そうすれば観光客が憐れみをもって、お金をくれるので、物乞いとして金を手に入れ易いとか。基本的に他人に優越感も劣等感も持ちたくない私だが、この時ばかりは、日本に生まれて良かったなと噛み締めた。 他人の不幸を見て、自分の幸せを噛み締めるなんて、なんて嫌らしい人間だろうと思うが、しょうがない。でもそこで「私には何ができるか?」と考えたのである。

私は、ボランティアの類いはしたことないが、年に一回お金を少し寄付して いる。(イイ人度アップ? それとも金でカタつける典型的日本人?) でも、破産するまでお金を出そうとはサラサラ思わない。可哀想な人に お金をあげていたらキリがない。まず自分の生活があって、 できることしかやれないのである。女の人は現実的だからなぁ… という声が聞こえてきそう。確かに。女はわりとがめつい。シンドラーが 理想を追って破産しちゃったってのも、男だったらありえるかなぁ、とも 思う。ならば、ユダヤ人はしたたかに生きましたってオチにすれば良いと 思う。

なのにユダヤ人は、運命に翻弄されたとばかりに逃げまどう草食動物の ようで、なんだか腑に落ちない。こんなに世界中でユダヤ人が活躍してる ってことは、この人たちって、もっとがめつくて、したたかなんじゃないの? それの何が悪いのか、わからない。生きるってそういうことでしょ。 シンドラーだって「戦争が人間の悪の部分をひきだす」みたいなこと 言ってたわけだし。カオスな状態が感情なんだから、もっとそれを全面に 出せば良かったのに。

もし私があの時代のドイツ人に生まれてたら、一緒になってユダヤ人を 差別していたかもしれないし、普通だと思っている人間が、いかにクレイジーになるかが怖いんであって、バンバン銃を乱射する所長は、本当に子供 じみてて、よく出世できたなと感心してしまった。彼が、普通であった のに、時代にのまれ頭がおかしくなる方が、怖さだと思うんだけど。

つまり、何もかもユルイのだ。スピルバーグがユダヤ人で、 これを撮りたかったという気概は感じる。ならば何で、脚本を 共同執筆しないんだ? もっと自分の映画にすれば良かったのに。 脚本家とは一杯のコップに入った濁った水を描くことで、 監督とは、そのコップをどう撮るかだそうである。自分がユダヤ人に 生まれた悲哀なんて、カメラアングルだけじゃ届くわけはなく、 濁った水(渾沌とした感情)から、参加すれば良かったのに、 一番撮りたい映画に対して、スピルバーグは及び腰になったのか?

因に、私が敬愛するビリー・ワイルダーもユダヤ人ですが、 この監督の身内は、収容所に送られ殺されているそうです。ユダヤ人色が でた作品は、たぶん1本もないと思うのですが(あるいは『第十七捕虜収容所』などには、影響がでているのかな?)、ワイルダーは、人間の機微を書くのが本当に上手い。やはり異端であった利点を (洞察力に優れている)活かした人と活かしきれない人の差を まざまざと見せつけられた気分になるのでした。

※《おまけ》 しつこいようですが、ユダヤ人のしたたかさ、ナチの 正常な人間がクレイジーになる様は、ロルク・シューベルの『暗い日曜日』 (シンドラーもこの曲が使われていましたね)、人間の感情への描き方は、 ルイ・マルの『さよなら子供たち』の方が、映画的に上に思われます。 

(評価:★3)

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