[コメント] 元禄忠臣蔵・後編(1942/日)
前編に比べれば、この後編は冒頭から寄り気味のカットが多く、人物が分かりやすい。とは云え、畳に正座した全身が捉えられるぐらいのショットなのだが。
また、富森正因役の中村翫右衛門が良く目立つのと、内匠頭の奥方、瑶泉院を演じる三浦光子も前編より見せ場が増えている。しかし、三浦は15歳の女学生役だった、清水宏の『信子』から、わずか1〜2年後とは思えない貫録だ。あと、河津清三郎の細川越中守も良い役。
しかし、何と云っても特筆すべきは、ラスト近く、高峰三枝子が男装して出現してからの、河原崎国太郎とのシーンだろう。高峰と河原崎を緩やかに移動しながら捉えるカメラの浮遊感。屋内での会話シーン、しかも座ったままで会話するシーンにおける、動的な画面造型と観客の感情操作の極め付けのサンプルじゃなかろうか。
本作は忠臣蔵モノとしては、討ち入り場面が描かれないことで有名な映画だが、真山青果の原作(戯曲)の時点で既にそうらしい。しかし、同じ溝口が戦中に撮った『宮本武蔵』でも、一乗寺の決闘は途中で暗転処理して最後まで見せない演出を選択していた訳で、溝口の志向性なのだろうと思う。さらに云えば、本作ラストでは、切腹は誰一人映されることが無く、名前を呼び上げる声で処理されるのだ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。