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[コメント] Helpless(1996/日)

昭和天皇が崩御したその年の9月のある日、健次(浅野忠信)の身辺に変化が生じる。その年である意味も、その日である必然もない。あるとしたら怨念とともに安男(光石研)が帰省した日だという事実と、健次の心の底に怨嗟が潜んでいたという事実だけだ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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安男(光石研)が捜していた服役中に死亡したオヤジ(組長)とは昭和天皇の暗喩であり、彼の怨念はぶつけられる対象を失くし彷徨い始めたのだ、という解釈は誤りである。もし十歩譲って昭和から取り残された男の暴力として、そこに意味を見い出そうとしても、暴力はただ忽然とそこに存在するだけで意味が意義を生むには至らない。

その暴力に意義を見い出すとしたら、健次(浅野忠信)にとっての負のイニシエーションとしての意義であろう。忽然と目の前に現れ行動を共にすることになる幼馴染みのゆり(辻香緒里)。イジメという日常の中で沸々と培養された秋彦(斉藤陽一郎)の歪んだ積年の殺意。父の死によって自覚された過去から連綿と連なる母に対する恨み。そして、健次の中で頭をもたげた暴力衝動。

その日、安男(光石研)の行動と呼応するかのように健次(浅野忠信)の周りに沸き起こった事象は、その日に起こるべくして起こった事実でもあり、あるいは永遠に訪れない事実だったのかもしれない。ただ確かなことは、誰もが負のイニシエーションによって呼び起こされる変化の種としての不穏と不安を秘めながら日々を過ごしているということだけだ。

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