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[コメント] 今宵限りは(1972/スイス)

召使たちを見て笑うことは出来ない。それは天に唾する行為なのだから。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







群青色と金色というシュミット独特の色彩感覚が見事に表現されている美しい映像の中で、俳優陣がゆったりとしたリズムで没個性的な動作を繰り広げることにより、非常に幻想的な雰囲気が映画全体を包んでいる。

特に気に入ったのは以下の三つのシーン。 まず、挿入されるボヴァリー夫人のシーンはメロドラマ調だが、徒に感情を煽ってくるような意味でのメロドラマではない。金色を主調として彩られた寝室で絞り出すように演じられる遣り取りが生み出す重厚感、緊張感、そしてため息がでるような美しさが相俟って胸を打つ。 次に、踊り子が頭に孔雀の羽をつけてサロメを踊るシーンはやりすぎかと思わせるほどの妖艶さで参ってしまう。 最後に、旅芸人のアジテーションの最中に召使達が不意に笑い出すシーン。何か自分に言われているだろうということは分かっているがその意味が分からず大笑いする様は実に間抜け。しかし、その間抜けな召使たちを見て笑うことは出来ない。それは天に唾する行為なのだから。

巻き戻しをみるかのようなラスト。宴の終焉が確実に迫っていることを教えている。その中で踊り場で佇みじっと鏡を見つめる旅芸人の後姿と鏡に映った表情。宴が終った後の寂寞感が漂う印象的なシーンだ。

(評価:★5)

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