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[コメント] 純愛物語(1957/日)

結局、見処はライオン歯磨コンビの純愛。序盤は清潔なふたりにこの役処は無理と見えたが、途中からどんどん情感が高まり、お堂の件などとても充実している。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本作は吉本隆明がべた褒めしている。共産党嫌いの吉本が今井を褒めるのだから途方もない作品ではと無茶苦茶期待したのだが、残念ながらそれほどとは思われなかった。そこで吉本は「私は、人間は食えなくなったら、スリでも、強盗でも、詐欺師でもやって生きるべき権利をもっていると、かねてから固く信じたいと思っている」と熱く語っており、そのフレーズは共感できるのだけど、本作はそこに力点の置かれた映画じゃなかろう。

中原ひとみは施設に戻ったら食えるのであり、江原真二郎だって中村是好に大金借りるぐらいなら、職探す中原に彼の食堂(樺太食堂という名前が時代だ)を紹介すればいい。病気なのだから一足飛びに一緒に独立など無理に決まっているのであり、どんなに厭でもまずは施設に帰って(どうして厭なのかも判り難いが)治療に専念するのが当然である。ふたりとも短慮であると云うほかなく、世間を知らない振る舞いは哀れを誘うが、単なるメロドラマの常道でもある。ともあれ吉本の云う強かさをこのふたりに観ることは難しい(大島『青春残酷物語』のほうが吉本の批評に近かろうが、吉本が大島を褒めることなど考えられず)。

原爆症の扱いは微妙で、10年後の東京にも症状が疑われる人がたくさんいたのを記録しているのは偉いが、結局はラブロマンスのネタに留まったとも感じる(最期に鼻血を斜めに垂らす中原の画に訴えるものはあるが)。タイトルバックは原爆被害の絵、ラストシーンは一緒に受診していた小林トシ子の再登場と、原爆症の映画ですよと示されればされるほど、そうでしたっけとなる。例えば新藤ならもっとこの主題に密着するだろうし、そうあるべきだ。水木先生も外していると思う(原爆症はいつ発病するか判らないという突然さに力点が置かれているのだろうけど、あまり伝わってこなかった)。

ドヤのセットがそっくりだから比べてしまうのだが、傑作『どっこい生きてる』の衝撃には遠く及ばない。ばったり倒れる人、という今井印のフォームは本作でも中盤の中原卒倒の件で繰り返されている。本作は田中邦衛井川比佐志のデヴュー作で、田中はさっそく目立っているが井川はどこにいるのか判らなかった。施設園長の長岡輝子はいつもながら抜群に上手い。バックレるという云い回しが当時からあったのが発見。

(評価:★3)

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