[コメント] 気違い部落(1957/日)
さて、物語が始まると、日本橋の交差点から山間部と田園風景の空撮俯瞰に移り、舞台となる部落が紹介される。バス停(名無川というのがバス停の名前)の近くの切り株には、勝手に休憩できないように五寸釘が打たれている。この五寸釘の主が最初の登場人物で、意外にも須賀不二男だ。続いて、三井弘次が赤犬を金槌で狙う。こっそり後ろから藤原釜足が棒で叩いて赤犬をせしめる。赤犬は鍋になる。部落の親方は機織り屋の山形勲だ。女工に手を付けている。女工の中には瞳麗子がいる。隣村から「ちょぼイチ」をやりに来る男達を柿の木の上から見る三井。こゝのカメラワークと高低の出し方が見事だ。隣村からの訪問者の一人は、桂小金治。山間の道を男達が走るカットのスピード感と、斜面の見せ方にも唸る。「ちょぼイチ」には信欣三も呼ばれる。あとは鉄次を呼ぶかどうするか、という話になるが、この後、村八分になる鉄次をやっているのは、伊藤雄之助で、満を持して登場する。彼が純然たる主役なのである。本作は伊藤の一家と他の村人達の対決の物語なのだ。
女優陣では、伊藤の女房が淡島千景で、娘が水野久美。本作の水野はかなり可愛い。伊藤に淡島では不釣り合いと思えるが、山形勲の「奥様」は三好栄子で、こちらの方が、よけいに不釣り合いだ。その他、信欣三と清川虹子、藤原釜足と賀原夏子が夫婦、藤原と賀原の娘が瞳麗子だ。
また、こういう題材なので、きっちりと「ロミオとジュリエット」的モチーフが描かれる。伊藤の娘の水野は山形の息子・石濱朗と恋仲なのだ。石濱は独立して街で働いており、中立の立場だ。もう一人、村の駐在さんとして伴淳三郎が登場し伊藤の家族を心配する。村の外にも顔の利く、伴淳の役回りがあることで、プロットに幅が出ることになる。
さて、演出の見どころとして、人物の縦構図も多い。家の中で手前に伊藤、奥に淡島等を配置したカットだとか。あるいは、伊藤が自分のものだと主張する木を伐って得た金で、村の男達が箱根旅行をするシーケンス。芸者遊びの様子を見る藤原釜足。この辺りの縦構図もいい。
前半は、登場人物がカメラ目線でオフの(画面にいない)森繁の声と対話する、というような、コメディタッチの演出が何度もある。これも、村八分が酷くなるに従って、演出基調がずっとシリアスになり、森繁のナレーションもなくなる。雨の中、家族だけでの野辺送りのシーンが凄い。墓の斜面の描写も、状況の厳しさを強調する。このデンで云うと、エンディングの山焼きのシーンも、画面での高低の見せ方や、見晴らしのいい風景の切り取り方が、登場人物の意志の強さを強調して見せるのだ。
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