[コメント] 甘い汗(1964/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
毎日が修学旅行のような住居だ。京の弟の名古屋章の簡平住宅、二間。奥の間は名古屋の家族、手前に母の沢村貞子と娘の桑野、息子らしき男の子もいたがよく判らない。四畳半二間に八人ほどが寝起きする。名古屋はさらに歯ブラシ売っている兄弟を泊めているし、京は友達の池内を泊めている。名古屋の妻は不満たらたらだが、彼等はそれでも軒先を貸すことに鷹揚である。
京を元恋人の佐田が尋ねてきての逢瀬のベッドに京はエロテープの録音機(オープンリールだ)を仕掛けて発覚する。これは、何という冗談だろう。佐田の方も荒れていて、コリアンの山茶花への貸家を無断でパチンコ屋に改装、市原悦子が部下連れて乗り込んできたりする。「朝鮮人と思って馬鹿にしやがって」と山茶花は怒るが、マグロ船を李ラインで没収されたと語る佐田は確信犯だっただろう。刃物沙汰に及んだ山茶花は京の日傘をざっくり斬る一瞬の任侠映画の切れ味を示した後でダンプで連れ去られた。コリアンへの視線は『あれが港の灯だ』を引きつぐもので水木洋子らしい。
京は序盤でも小沢栄太郎の妾になろうとして失敗し、友人の池内のショボい居酒屋は再開発で潰される(横の溝に芥箱ひっくり返してゴミが捨てられるショットが印象深い)。愚痴を孫の桑野に暗唱されているといういいギャグの肴にされる沢村は、娘の京に野村昭子の「道徳の会」とかいう新興宗教を勧め、京はおかしくなってパンフを筒にして沢村を眺める。怖いショットであった。
本作の桑野は清潔で快活な娘を演じて素晴らしい。京マチ子の褒められた作品だが、桑野も代表作だろう。これほどいい俳優だとは気づかなかった。書置きを残して家出したのに大勢いる家族の誰も気が付かず、ブーたれて戻ってくる件がいい。黒縁眼鏡の桜井浩子が友人役で自宅に泊めたりしている。そして再度の家出。京の回想、桑野を置いて佐田とふたりでタクシーで去ったが、車は一周して戻ってきて京は降りて娘を抱きしめる。今度の夜は、同じ道路で桑野が京を置いて去って戻らない。この人工的なロータリー(まさかセットか)、続く夜明けもシュールで印象深い。京は「奴さん」を唄う。東京映画、モノワイド。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。