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[コメント] 黒い雨(1989/日)

時計の針を、平成元年から逆回転させるかのような、白黒の画面。焦土と化した広島の陰惨な情景に耐えかねたように黒一色に染められた画面は、同時に、黒い雨に染められたようにも見える。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原爆が落ちる直前、駅の時計が映し出されていた事や、投下後、小舟の人が拾う、針の跡が焼きついた時計盤、そして、一見平穏に暮らしているように見える矢須子(田中好子)が、七時になると合わせる時計の針。ニュースは、朝鮮戦争で原爆が再び使用される懸念を伝え、時計の針は何度も巻き戻されるかのようだ。矢須子の見合い相手の男(石丸謙二郎)が、朝鮮特需で儲けている事や、矢須子の体の事など平気だというその明るさの空虚さ。

友人の異変を告げに来た男が、彼自身、そのまま倒れて亡くなったり、矢須子の髪がごっそりと抜け落ちる様を見て動転した叔母(市原悦子)がそのまま亡くなったりと、狭い共同体の中で、死は連鎖していく。矢須子のこの場面はまた、風呂場で乳房を晒す、女としての性と、髪が抜けるという形での、女としての悲劇とが、同居している。

ラストシーンでの、叔父・重松(北村和夫)の独白、「虹が出れば奇蹟が起こる。不吉な白い虹ではなく、五彩の虹が出れば、矢須子の病気は治るのだ」は、画面が依然として白黒のままである事の絶望を、観客に突きつけてみせる。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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