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[コメント] にっぽんのお婆あちゃん(1962/日)

浅草雷門を手前に仲見世通りを撮ったショット。最初に登場するのは北林谷栄で、続いてミヤコ蝶々。アバンタイトルは二人の出会いの場面だ。橋幸夫のレコード「木曽節三度笠」が二人を引き合わせる。
ゑぎ

 本作は、この二人の約丸一日の彷徨を綴った映画。クレジットの最初も二人が一枚で出るが、ビリングトップは蝶々さんということになるのか。ほゞ甲乙つけがたい手番と存在感だ。ただし、私の感覚だと、北林は勿論凄いが、いつものパターンの造型だと感じられ、それに比べると、蝶々の方が、いつもと違う。その繊細な演技に何度も泣きそうになった。

 もう少し、主演二人について先に書いておこう。上で北林はいつものパターンみたいに書いたが、映画的なカッコいい見せ場としては彼女の方が多いかも知れない。例えば、ゴロツキに倒された北林が啖呵を切る場面のカッコ良さ。あるいは、北林にだけフラッシュバックのシーンがあり、養老院でのフォークダンスシーンを導くのだが、これがストップモーションとネガ反転も使った凝った演出なのだ。そう考えると、蝶々には派手な見せ場はないのだが、細かな心遣いの演技演出でキャッチする部分が多い。例えば、賽銭箱の前の小銭を拾っても、ちゃんと箱に入れる様子や、商店街の生地屋の前で「女やから生地でも見よか」と立ち止まる場面なんかも、私はいいなぁと感じるし、北林の行動をよく観察し、時には抑制するという場面もあり、クレバーさが出ているのだ。

 さて、その他の脇役については、下でまとめて備忘として記載するが、特に、養老院のシーンで出て来る沢山の名脇役たちは、皆少ない見せ場しかないけれど、女優陣も男優陣も皆、一人一人、キャラ立ちも良く、見事にさばかれていると思う。また、浅草のシーンで主演者二人と絡む人々の中には木村功十朱幸代がいるが、19歳頃の十朱、クシャッと笑って登場する場面の清涼効果がハンパない、ということは特記しておくべきだろう。十朱が働いている「鮒忠」(本作中では鳥飯屋と紹介される)へ向かう場面で、素早いズームインがある。ズームは全編でこゝだけだ。

 というワケで、中盤までは、今井正としては、かなり真面目に良い映画だと思いながら見ていたのだが、終盤の展開のイヤラシさには矢張り幻滅してしまったのだ。特に木村功の扱い。あるいは、蝶々と息子夫婦−渡辺文雄関千恵子とのやりとりの場面。描かれている内容がイヤらしい(作劇臭い)という以上に、前半の蝶々のクレバーさが帳消しになるような演出に残念に思う。ラストカットが渡辺の困ったような表情、というのも変なのだが、これはあまりに変なので、キャッチさせるための演出だとは思う。

#備忘でその他配役等を記述します。

・養老院のお婆さんたち。東山千栄子浦辺粂子は嫌味なぐらいお上品。岸輝子は、洋行帰り?英語混じりで喋る。元看護婦で勲章を貰ったという原泉村瀬幸子は動かないので蒲鉾と呼ばれている。あとよく喋る飯田蝶子

・養老院のお爺さんたち。斎藤達雄は医者。元乞食だという中村是好。中村との同室を嫌がる渡辺篤。配給係りの左卜全。元ヤクザ親分の山本礼三郎。政治ゴロと呼ばれる上田吉二郎。八卦見をする殿山泰司。画家の菅井一郎。ノイローゼでファスナーを上げ下げする小笠原章二郎。酒好きの伴淳三郎

・養老院の運営側。園長は田村高廣。副園長−小沢昭一。職員に織田政雄。調理場には栄養士の沢村貞子とコックの清水金一。そして、寮母は市原悦子。市原は飯田蝶子から「母ちゃん」と呼ばれる。

・お巡りさんは二人出て来て、署で電話を受ける渥美清。派出所には柳谷寛。渥美の登場ショットは、ゆっくりしたトラックバックだ。特別感のある演出。柳谷に追いかけられた北林と蝶々さんが逃げる移動ショットも良いショット。

・掛軸屋のオヤジで三木のり平。十朱の同僚の五月女マリ

(評価:★3)

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