[コメント] 豚と軍艦(1961/日)
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芸術的作品から下世話な作品、艶物までと幅広い作風を持つ今村昌平監督によるコメディ調作品。そもそも先の『にあんちゃん』で芸術祭賞を受賞し、それを恥じたために制作したというが、本当にぶっ飛んだ内容で、たたみかけるようなパワーを持った作品に仕上がってくれた。とにかく無茶苦茶笑えた。こう言うのを劇場で観られるのは本当に幸せな気分にさせてくれる。
内容で言うなら、本作はいくらでも暗く仕上げることが出来るはずの素材を使っている。ヤクザ同士の抗争と、それによって先細りとなって、その流れを止めることが出来ない組織。体を売って生活していかねばならない売春婦達の哀しみ。利用されるだけ利用されたら、簡単に捨てられる下っ端の悲惨さ。こう言った題材を使っていながら、しっかりこれらをコメディに仕上げることが出来る今村監督の技量には驚かされるばかり。
これを可能としているのは、今村監督は雑然とした群衆を描くことが抜群に上手いと言うことが挙げられよう。どんな底辺にあろうとも、否、底辺にあるからこそどんなことをやっても生き抜いてやろう!という意気込みに溢れた人間達が織りなすドラマは圧倒されるほど。特に売春宿の女性達の力強さと、健康な肉体美は何とも(苦笑)
こんな世界だからこそ、気弱になった人間はあっという間に落ちぶれてしまう。攻めを続けている内は羽振りが良くても、一旦守りに入ってしまうと叩かれっぱなしになり、更に自分の人生に疑問を持ってしまうと、滑稽な程に情けなくなってしまう。それを端的に示したのが丹波哲郎演じる鉄次の描写。これは本編とは基本的に関わりなく展開していくサブストーリーなのだが、雑多な力強さが全編を覆っているからこそ、その描写が映える。下手すればカニバル描写にまで陥ってしまうネタを笑いにしてしまう力業も素晴らしい。
キャラ描写に関しては完全に丹波に喰われてしまった感があるものの、何の能力もないのにテンションだけは無茶苦茶高い長門裕之と、彼を愛してはいるものの、それを醒めた目で見ている吉村実子の対比も見事…とは言え、改めて考えてみると、やっぱり丹波なんだよなあ。後年そのアクの強さを逆手に取られてコメディ役者としても認められるに到るが、この時点では渋さで売ってたはずのキャラにあそこまで情けない役を演らせるとは。しかもそれらがことごとくはまってる。「業が強すぎてとても死にきれねえ」と叫ぶのは、それだけで「うんうん」と頷いてしまえるほど。
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