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[コメント] 桜桃の味(1997/イラン)

助手席というのは、ときに行先を知らされず、運転手の語りを拒否する権利がなく、眠たくなる以外にやり過ごす術がなく、でも、その間つねに運転手に自分を預けているという……考えるとおっかないですが、人生にはついて回る、他者を回避できない時間ですね
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







なんて感想でお茶をにごそうとするのは、俺はまだこの運転手の気持ちになったことがないということなんだろう。何しろ酒も食い物もうまくてうまくて。

公開当時、大学の講義で見せられかけたんだけど、そのときはかったるくて抜けちゃって、それっきりになっていた。でも助手席から見る主人公の横顔、そして色気(エンタメ)の片鱗も見えない茶色の色彩はずっとどっかに引っかかっていた。そういうのを平気で目の前に上げてきちゃう配信サービスって困ったものですね。

いい年になって初めてちゃんと見た監督の手腕は、一見ミニマムなストーリーで小津やタルコフスキーが最後まで丁重なカットをほとんど間違わずに積み重ねるのに通じるものを感じた。考えれば考えるほど簡単じゃないシーンもいくつかあって、車切り返すところまで長回しとか、重機が土砂をドシャーした土埃にまみれて逡巡するシーンとかは、独自のダイナミズムとすごみを感じた。若者の人種それぞれに込められたメタなあれとかも多々あるのだろう。キャストもスタッフも撮影終了まで毎日毎日この茶色い山で土埃にまみれて、一歩一歩「終点」に同化することを強要される、それこそ死にそうな現場がああいう発露になるのもわからなくはない。

ただ、正直いうと、俺には、このオッサン、本当に死ぬような顔にあんまり見えなかったな。自殺には付き合えないといった若者たちは、実質彼を突き放している。死にたきゃ勝手に死ね、と言ったようなもんだ。ところがウズラを殺しまくってきたじいさんだけが、話を取り合ってくれた。取り合ってくれたじいさんのもとに舞い戻ったのは、死にきれない言い訳を求めているように見えた。あと、このじいさんは翌朝、ちゃんと見に行くのだろうか。

(評価:★3)

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