[コメント] 彼女と彼(1963/日)
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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最後に考え込む左からは『子犬を連れた貴婦人』のラストが想起させられる。彼女は二重生活者となった自分を省みて、答えのない問いを考えることを強いられる。生活を捨てて荒野に出でよと命ぜられている。このジレンマは普遍的だと思う。誰にでも善意を振る舞うことは、お釈迦様でもなければ不可能だ。しかし良心は救えと命ずる。人は切り裂かれ、必ず後悔する。その後悔の累積だけが、世の中を変えていくのだと思う。
シニカルに云えば、考える専業主婦は高度経済成長の産物だろう。企業戦士の岡田英次にそんな余裕はない。想いはすれ違う。男女関係を勘ぐる岡田と否定しない左、何とか橋渡しをしようと自分の産後を語る左、生活のために冷淡を決め込む岡田。病床の少女を避けて団地の外に出て交わす、このふたりの会話は重い。そんなことまで考えていたのかという、寡黙な物語に突然に飛躍したやり取りを盛り込む構成が渋い。
本作のバタヤ部落と新興団地の対比は記録としても優れている。私は大阪駅前ビル横に80年代まで残っていたバラック街を思い出さずにいられなかった。当時の新興団地は皮肉にも、今や本作の部落並の扱いになっている。駅前ビルも同じである。
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