[コメント] ピアノ・レッスン(1993/豪=ニュージーランド=仏)
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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夕暮れ迫る海岸に、ひとつ残されたピアノ。淡い波が打ち寄せる。その遠景を見つめる女。ふと、胸中にピアノの調べが流れてくる。初春の風に、女の被る帽子のリボンが、たなびく。陶然とした表情で、そのピアノを見つめる女。ゆっくりと女の顔を中心としてカメラが回転していく。映画の中でも印象的なこのシーン。
ピアノと海岸。小さな着想から、一瞬にして、ジェーン・カンピオン監督はこの愛の物語を、視覚的に紡(つむぎ)ぎだしたのではないか。そして、この映画が傑作となることの予感、女性監督なるが故の自らの使命の大きさに気付き、うち震えたのではないか。その恍惚感を、そもそもの元となった映画にあのシーンで刻印する。情感を閉じ込める。独創的な演出だと思う。
静まった緑の森林に、繊細なピアノの調べが、溶けていく感覚。未開の地に、西欧の文化がフュージョン(融和)していく感覚が、官能的でたまらない。(「THE PIANO」のタイトルも緑色だ。)そして、新しい、女性監督の映画、新しい オセアニア映画の開拓が、この作品より始まる!
ピアノの鍵盤のひとつを男に託す、女の骨を一本全部を男に託す。深く静かな海底に潜(ひそ)む狂おしいまでの、一途な女の情念。その情念をまるごと受け止められる器の男に俺は成る!
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