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[コメント] エドワールとキャロリーヌ(1951/仏)

ベッケル流の脇役天国が後半のセレブ・パーティで炸裂してメキシカン・ハット・ダンス(アホの坂田)で踊り狂うに至る。そのため主役ふたりのドラマは雲散しかかっているが気に留める風でもない。大物監督は違う。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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若夫婦の危機はそれほど面白くない。序盤は、お互いの齟齬と危うい性格を、辞典(ぼくの辞書を使うなと夫は怒り、妻は読んだことないと云うが、台の代わりに使っていた)やベスト(探してなくて、妻が棄てていたと判明)のやり取りで示すのが愉しかった。しかし、夫が貶した妻の短く切ったドレスがみんなが褒められるという展開はちょっとありきたりだし、離婚するなら最後にセックスという夫の行動は私には常識外れで意味が判らなかったし、最後の仲直りも適当に思えた。まあ、軽いコメディだからこのくらいの匙加減でいいのかも知れない。夫のダニエル・ジェランはピアノの指使いが素晴らしく、こちらもプロなのかと思った。手つきを絶対に映さない(従ってつまらない)ピアニストの映画が多いなか、さすがの造形だと感嘆させられた。

脇役使いは序盤から好調で、ピアノ聴きに来るナイスキャラの大家の小母さんと軍人の甥がいい。夫がベストを借りる、夫曰く嫌味な従兄や、ロシア人の臨時の給仕もいいキャラ。最高なのは有力者のバルヴィル婦人(ベティ・ストックフェルド)で、病気の妻を見舞うために自分の演奏会を中座する夫に感激して、セレブたちに紹介して回るというトラブル対応を買って出たのに、そこに妻が現れてすっかり厭になって帰ってしまう。フロレンス役のエリナ・ラブールデット(ブレッソン『ブローニュの森の貴婦人たち』の踊子)は押しの強い美人の造形で、主役の妻が喰われかけてもいる。普通はこんなことしないと思うが、これをやっちゃうのが脇役好きのベッケル流なんだろう。彼女のアメリカ人の亭主が夫をピアニストとして買って、映画はハッピーエンドに向かう。夫のピアノ演奏中に時計が鳴り、客のリアクションが詳細に描写されるのも得も云われぬコメディだった。

若夫婦のアパート、パーティの準備(隣室のバスルームの強調が『アイズ・ワイド・シャット』を連想させる)、妻のアンヌ・ヴェルノンのドレス着用の詳述がとてもいい。キャメラが姿見に見立てられ、観客は姿見の目線で、髪なり服装を直すふたりと相対してドギマギさせられる。面白いのは、彼等が姿見の前から移動して別のことを始めると、キャメラはそのままに戻って彼等の後を追う。まるで姿見がそのままふたりを追いかけるような印象でユニーク。さすがベケット、撮影自体でコメディを展開するのだった。これが本作の私的ベストショット。冒頭と収束でキャメラは窓の外の街路にパンされ、室内劇と強調される。

(評価:★4)

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