[コメント] モンパルナスの灯(1958/仏)
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私自身はあの白目が怖くてあんまり好きではないけど、最近になって脚光を浴びるようになったモジリアニの絵がどのような貧困の中で描かれていたのか、そして彼がどのように女性に愛されたかがよく描けている。特に当時のフランスはこういう虚無的な人間を受け入れる素地があったのだろう。彼は常に幸せじゃない。幸せじゃないからこそ魅力が出る。“孤高”としか言いようがない人間だった訳だ。それは決して自分で求めたものじゃなかったはず。周りに人がいなければ生きていけない。だけど、人が自分を苛立たせる…だからこそ、彼はゴッホやゴーギャンのように外に出ようとはしない。あくまで街の中でボヘミアンとして生きることを選んだ人間だった。
このモジリアニ像は現代の人間にこそ当てはまる人物像ではないだろうか?現代こそ人の中で生きることしかできないのに、孤独な時代はないのだから。
かくいう私だってここまで酷くはなかったが、かつて長い間鬱に悩まされていた時代があり、その中で同じような思いをしたことだってある。一人でいるのがたまらなく辛い。だけど、人の中にいれば、かえって孤独感が増す…どちらがより“良いか”ではなく、どちらがより“辛くないか”という価値観で生きるしかなかった。荒れたし、周囲の人にも迷惑をかけどんどん友人を失っていった点はモジリアニとは逆だが、少なくとも死を選ぶことがなかっただけまだましか。それに私には何の才能もないしね。
…結局自分が凡才でしかない事を受け入れることで、人は成長していくんだろう。それが出来ない人は多いが(特に現代は多くなっている気がする)、その中でほんの一握りだけが後世に名を残せる。時としてそれは生きている時ではなく、死んだ後になって…
最後、モジリアニが死んだと分かった途端、ヴァンチュラ演じる画商が彼の絵を買いあさるシーンがあったが、これが本物の芸術家の行く末だったのかも知れない(ここでエーメが「彼はどんなに喜ぶでしょう」と涙するシーンが特に素晴らしい)。
こんなモジリアニを演じるのにフィリップはまさにはまり役。そもそもフィリップはこういうとんがった危うい役こそ真骨頂であることを改めて感じさせてくれた。尚、この歳フィリップは35歳。モジリアニの活動時期と同じで、奇しくも翌年モジリアニと同じ36歳で肝臓ガンで死去。映画界は惜しい人を亡くしたものだ。
フィリップ、エーメという美男美女を配し、更にヴァンチュラが良い役をやってるけど、ただ物語そのものが極めて単純すぎるのがちょっとだけ残念。これではモジリアニはいつも苛ついてる女好きにしか見えない部分もあり。もう少し複雑な心理まで突っ込んで欲しかった所。割と物語自体が表層的で終わってしまった。フィリップの名演を観るためと割り切る必要はあり。
監督と主演男優の死という事件の他、本作の脚本を書いたアンリ=ジャクソンはベッケル監督によってあまりに改変させられすぎたため、クレジットから自分の名前を削除させたとも言われている。本作はいわば呪われた作品だったのかも知れない。
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