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[コメント] お引越し(1993/日)

こうした成功作を見せつけられると、相米慎二キアロスタミカサヴェテスにも匹敵する才能だと云いたくなる。日常的な道具立てのみを用いて緊張感とユーモアを生む手つきの確かさを見せつつ、その豪腕を以って任意の一瞬間を境に映画を夢も現も時間さえも越えて高らかに飛翔させる。
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とりあえず「道」の映画だと云ってみよう。これは道の映画的魅力がいっぱいに詰まったフィルムだ。田畑智子が同級の男子に籠城作戦を伝授される、階段を奥に据えての道。てっぺんに登った途端に土砂降りの雨が降り出す坂道。町の路地。桜田淳子の橋。田畑が疾走し、彷徨するところのすべての道。森の道なき道。エンド・タイトルバックに添えられた未来への道。あるいは、ここで「道」を「およそ人の通るあらゆる場」ときわめて広く定義しておけば、中井貴一がうずくまる階段や田畑と桜田が追いかけっこをする室内/廊下もまたサスペンスと活劇の舞台としての道だと云えよう。

しかし圧倒的な画力で提示される諸風景に田畑のみが拮抗しえているという意味において、これを田畑の映画であると云い切ってみせることもまたじゅうぶん許されるだろう。彼女の一挙手一投足が笑みと涙を誘う。疾走や彷徨、だけではない。たとえばボクシング・ポーズからのムーンウォーク、その独創的な映画性に私は涙した。「映画」とは、どこまでも被写体である。

(評価:★4)

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