[コメント] 萌の朱雀(1997/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
まず冒頭の緑の山。その山の深い緑の風景にタイトルが重なりますね。このタイトルも知性を物語りますが、その写し方も見事ですね。美しい冒頭のシーン。
そこに幼い子供の手を引く小学生の兄。これはあとで血縁のない者同士であることがわかるのですが、この二人の姿はあたかも『火垂るの墓』を思わせますね。この映画の時代背景はわかりませんが、奈良の山奥に生活するこの自然あふれる生活の中で、この小さな少女とひょろひょろとした小学生の少年の姿は、戦後を思わせますね。
そしてこの二人が学校から遠い遠い道のりを歩いて帰るこの自然の風景。そして近くで畑を耕す老人たち。この風景もどこかで見ましたね。そうです、『となりのトトロ』の冒頭のシーン、メイとサツキが新しい家に越してくるシーンが重なります。
これだけではありません。
この映画には空の色、特に雲の色もドラマを先行きを予兆させる不思議な魅力に溢れています。あの白い雲は黒澤明監督の『乱』で多用された手法ですね。そしてドラマの進行とともに、雲の色も変化し、最後に至っては痛さを感じさせるほどの強い雨がドラマの最後を飾ります。この痛い雨は『七人の侍』で経験しましたね。でもこの映画は戦闘を伴う映画ではありません。
何か彷彿とさせるもうひとつのシーン。それはトンネルです。
最初、この地域に開通するはずだった電車が通るはずのトンネルを父親と子供達が歩きます。これは『千と千尋の神隠し』で見せたあの未来に対する恐怖をイメージさせますね。
そして再度トンネルが写るシーン。それは父親が自殺を決意してトンネルを通るシーン。これは黒澤明監督の『夢』で兵隊が居並ぶ亡霊のイメージです。
これだけ並べても、過去の名シーンを見事に包含し、温かく且つシビアに田舎の情景を映し出す手法は、この監督がこれまで多くの映画を見てきたことの証だと思うんです。
それからカメラワークも見逃せません。特に、家の台所あたりを中心にカメラが寄って、人物とともに引くという手法は、『イングマル・ベルイマン』タッチです。カメラに映し出されるフレームを超えた窓とか扉とかが、一級品の芸術を見ているような気分にさせてくれるんですね。これすごいことです。
ドラマは悲劇的な過疎へ向かう田舎の老人たちをビデオを映し出して終わりますが、それを非常にも温かく演出するあたりに非凡さを感じますね。
カンヌで新人賞を受賞されましたが、とても新人とは思えないプロの力量を強く感じました。
2010/02/01(自宅)
(評価:)
投票
| このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。