コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 飛行士の妻(1980/仏)

これも実に面白い。まずはタイトルのネーミングがお洒落。実を云うと、私はとても寛大な観客だが、ことタイトルだけはウルさい、というか気になるタチだと自認している。
ゑぎ

 本作の場合、「飛行士」とは何(誰)か、という点が中盤になるまで分からないのがいいし、またその「妻」が、プロットの焦点のようでいながら、微妙な位置づけで着地するのもいいと思う。

 早朝から夜までのある一日のお話で、主要キャストは4人。いやもっと云えば3人だ。トップシーン−早朝の駅近くの郵便局で、仕分け作業(バイト)をする20歳の学生・フランソワ−フィリップ・マルローが一応の主人公。ヒロインは2人いると云っていいと思う。フランソワの(一応の)彼女である25歳のアンヌ−マリー・リヴィエールと、フランソワが行きがかり上のナンパみたいなカタチで知り合う15歳のリュシー−アンヌ・ロール・ムーリー。あとは、アンヌの(一応の)元カレで、3か月ぶりに姿を現し、妻が妊娠したと告げる男・クリスチャン−マチュー・カリエールがいるが、彼は科白も少なく、ほとんど町を歩くだけの存在だ。もう少し書くと、画面上のクリスチャンは、主にフランソワとリュシーが尾行する対象として描かれている。

 ロメールの演出に関しては、例えばフランソワとアンヌが喧嘩しながら町を歩くシーンなど、手持ちの移動とパンニング主体の動的な画面作りもいいのだが、やはり本作でも2人で会話するシーンの切り返し演出が抜群に良いものだ。まずリュシーとフランソワでは、公園でクリスチャンと連れの女性を監視しながら会話するシーン。この場面では、主人公がリュシーに移行したのではないか、と感じられるぐらい、彼女が魅力的に撮られている。さらに、続くクリスチャンらがビルから出て来るのをカフェの中で待ち受けるシーンの方が、光りの扱いとしては綺麗だと思った。

 あるいは、終盤のアンヌの部屋でのフランソワとの2人の会話シーンも、人物の位置を様々に移動させながら(例えば、アンヌがフランソワに早く帰れと云ったり、まだいかないでと云ったりしながら)の切り返しがとても面白いカット割りになっている。特に、アンヌがベッドの側の水槽に金魚の餌を落とすショットに繋いで、フランソワがサイドボードの上のスノードーム(中の雪が舞うガラス玉)をもてあそぶショットを挿入するカッティング(球形のガラス製品のマッチカット)なんて唸るような演出だ。

 あと、プロットの好悪の話になってしまうが、私はクリスチャンの連れの女性が誰なのかについて、全く不明のまゝ終わってしまった方が良かったと思う。いや、本作の帰結(ラスト近くにフランソワが書く手紙の文面)も、実はフランソワの思い込みに過ぎないのではないか。また、フランソワのアンヌへの想いがいかほどかという点について示唆されるエンディングは趣深い。これも極めてイジワルなロメール。

#終盤、アンヌが街角で出会い、一緒にバスに乗る男はファブリス・ルキーニだ。ラストに流れる歌「パリに誘われて」を唄っているのはアリエル・ドンバール

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。