[コメント] 男はつらいよ 幸福の青い鳥(1986/日)
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本作の裏テーマは役者道であり、冒頭のイッセー尾形やタイトルバックの関敬六との寸劇など面白く、なんとすまけいが登場し、飯塚劇場という最高の舞台で鮮やかな歌舞伎の見栄を見せる(「おじさん、元役者だったんじゃないの」「判る?」というリアルなやり取りがある)。渥美清の小ネタもいつも以上に味があり、区役所での「あなたの声をお聞かせ下さい」はシリーズ最高のギャグだろう。元座長役の吉田義男は本作公開2日後に逝去とのこと。最高の追悼になったと思う。
長渕剛もその延長にいる。人情味のある拗ねたチンピラ役は山田演出と相性がよく、ヤクザ物などより彼にずっと似合っていた。映画の看板に描かれた半裸の女に話しかけるひとり芝居なんか、いいものだ。「俺は根暗なんだぜ、あんたをリラックスさせようと努力しているだけの話」なんて科白(当時ネクラという言葉がどれほど抑圧的なニュアンスで流行ったか覚えている人には、このような使い方は驚きですらあるだろう)も、公園での「どうせクズさ」という志穂美悦子とボヤき合う件も、最後の寅との絡みもいい味がある。あんな右翼になっちゃって、左翼の山田洋次は使えなくなって残念だろう。ラストでさくら宅での正月、志穂美に下に降りてこいと呼ばれても二階でハーモニカを吹き続ける長渕は、よくは判らないが志穂美との結婚を嫌がっているように見え、寅との類似点が浮かび上がっている。
岡本茉利を使わない大人の事情が本作最大の不満だが、長渕相手なら志穂美でよかったのだろう。彼女の回想の数々には、シリーズ物の美味しい処が詰まっている。話は志穂美がなんで上京したのかよく判らないのが欠点だが、どうでもいい細部ではある。本作にもうひとり寅のマドンナを迎えたら、話は散漫になっただろう。助演寅で成功している。ビール500円と寅屋の品書きに表示があり、この頃以降日本の物価は平行線以下と判る。背景は筑豊の「石炭三法打ち切り反対」と柴又の「余剰人員」。
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