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[コメント] 上海特急(1932/米)

サイレント時代のようなスタンバーグらしい力感溢れるショットは殆ど観られず、わずかに暴動シーンの夜の白煙と逆光が愉しい程度。褒め処はふくよかに撮られたデートリッヒぐらいしかないんだろう。怪鳥のコスチューム着て何故か芹明香に激似。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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クライヴ・ブルックはイギリス軍所属の外科医で直前には満州で調査研究(内容は明かされないが、当然リットン調査団(32)に違いない)、旧知の上海リリー・デートリッヒもイギリス人の設定だろう。だからアメリカは相対化されているのだが、イギリスのほうが当然、中国大陸では悪者という含みもあっただろう。しかしこの主題は顕在化せず、ふたりはもっぱらラブロマンスに精を出している。

時代は31年と会話で説明される。北平(北京)発上海行特急。北京には上海のような租界はなかったはずだが、駅には欧米人の兵隊が警備している。「上海に着けばめっけもの」「あちらも内戦中ですよ」という会話がある。

汽車は線路ギリギリに建て込んだ路地を走り、線路上を埋め尽くしていた民衆は慌てて四散する。痩せた牛が線路上に居座り、「これで一時間遅延だ」「中国人には時間の観念がないんだ」と車窓で西洋人たちが愚痴る。時間の観念がないという天国のような暮らしを汽車は掻き分け進むのだ。これは当時の、中国には国家はないのだから占拠して構わないノダという欧米日の中国侵略の認識そのものである。そして汽車は鶏を追って再出発し、無蓋車に乗った兵隊たち(どこの国かは指定がない)は銃剣で並んだ樽から食料を次々と頂戴している。ここの描写はむしろ欧米人を批難しているように見える。後に『アナタハン』を撮るスタンバーグは同時代の基準よりはリベラルだったはず。

急行は国民軍に停められてパスポート点検。ひとり捕まり「革命軍のスパイでしょう」の噂。革命軍側も描写されて12時を合図に急行を急襲。さっき捕まった人質の引き渡しが目的なのだが、ついでにドイツ人が阿片取引で銃殺され、あとは人質尋問などでグダグダ進み、上海リリーは牧師に諭されて神に祈り、娼婦仲間のアンナ・メイ・フォンは革命軍を刺し殺して新聞に良民と讃えらる。ラストは怪鳥のキス。ハリウッド文法を当てはめて、まあこんなもんだろうという感想。

(評価:★3)

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