[コメント] 影の車(1970/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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好きな映画です。野村芳太郎の乗りに乗った演出の円熟味という感じです。この頃の野村芳太郎だったら、このクラスの作品ならホイホイできてたんじゃないでしょうか。衝撃的な結末とか、論争を呼ぶストーリーというんじゃないのですけど、上手いんですよね。
例えば加藤剛が初めて岩下志麻のウチに上がるシーケンス。加藤剛がタバコを取り出す。岩下志麻は、女手一つで子どもを育てている、つまり社会で働く女性なので、そこはサッと火を着けてやるんですね、ライターを取り出して。でも、灰皿を用意するところまでは気が回らない。いますよね。加藤剛はずうずうしくも灰が落ちる寸前ぐらいまでそのまま吸い続け、ようやく「灰皿あるかなあ」みたいなことを聞く。その間、岩下は台所でお湯かなんか沸かそうとしてんですけど、言われてハッとして、でも、出てくるのはもちろん、食器棚から醤油皿、なんですよ。
分かるじゃないですか。彼女自身にタバコを吸う習慣がないことはもちろん、男慣れしていない、そしておそらくこの家に男性を上げるのは初めてだということが。その緊張感まで含め、たったこれだけのシーンで全部描かれちゃう。↑これ、文字で書いたら何行ですか? たまらないですよね。
でもってしばらくすると、何の変哲もない場面転換のシーンで、岩下の家で、その息子と加藤と3人で談笑してる場面がチラッと映るのですが、そこではちゃぶ台の上にガラス製のおっきなのがデン、と置いてあんですよ。このワンショットに時間の経過と二人の関係の進展がしっかり描かれてますよね。きっと一人じゃ買いに行けないから、二人で出掛けたのかな?とか思うじゃないですか。まあこんなのは、映画を観終えたあと、つらつらと振り返りながらニヤニヤと思い浮かべるとこかもしれませんが。
小津の遺作『秋刀魚の味』と、共通するのは岩下志麻がリアルタイムの同年代を演じているところぐらいですが、あそこで嫁いだ志麻が、すぐ子どもができたけど、またすぐ旦那が死んじゃって、女手一つで子育てしてたら、だいたいあんぐらいの子を持つ母親になっていたかな、などとウダウダ考えたりするのが個人的には楽しかったりします。
14/09/03記
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