[コメント] 影の車(1970/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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日々仕事に忙しく、自宅へ帰れば妻の仲間達が大勢詰め掛け居場所の無い、旅行代理店の係長。その妻との間にも子供ができず、どこか空虚な毎日を送っている。一方、夫に先立たれ、6才の息子とひっそり暮らす保険外交員の女もやはり人恋しい。この二人実は千葉県の千倉での幼馴染であった。そして偶然にもバスで一駅違いの場所に住んでいたのだ。バス内で数十年ぶりにバッタリはちあわせた二人は、自然ななり行きで結ばれていく・・・。と、ここまでの流れを至極丁寧に描いていて、二人のこれからの動向についてグっと引き寄せられる。まさに既婚者ならば誰もが体験する可能性がある日常的な出来事だ。
そして巧い(怖い)のはここからだ。やはりキーポイントは子供(及び主人公の子供時代)になる。親父のいない子供にとって母親はたった一人の何ものにも変えがたい大きな存在だろう。そこにひょんな折、見知らぬ男が介入してきたとすれば、物事の分別がつくかつかない微妙な年頃の子供にとってはそれが異物と映っても何ら不思議はない。紅葉の鮮やかな森林へドライブに出かけ、子供が車の中でふと起きると母親が男とどこかに行ってしまって姿が見つからない。子供は不安になり「お母さ〜ん!」と何度も呼びかける。このシーンで俺自身も、非常に寂しく不安な気持ちになってしまった。主人公の男は子供と打ち解けようと努力するが、結局は女と結びつく為の前仕事に過ぎない。これを否定はしない。でも第三者として見ると大人の原理で物事は進み、子供は被害者のように思えてしまう。子供時代に同じような体験をし、しかも殺しまでしてしまった主人公の疑心暗鬼からくる幻覚なのか、実際に主人公と同じようにあの子供は本当に主人公に殺意を抱いていたのか。これはわからない。この辺のスリラーとしての見せ方が抜群に巧いし、そして怖い。
俺は思った。この先、決して自分の子供をこんな不安にさせる事は無いようにしなければと。
「砂の器」も良作だと思っているが、個人的にはこっちの方が心に残った。若干、お涙頂戴な「砂の器」が良く取り上げられるのに比べ、本作があまり話題に上がらないのは、やはりこのスケールの小ささ・暗さ・重さによるものなのかな。
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