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[コメント] 座頭市(1989/日)

本シリーズが積み重ねてきたものを回想するばかりの総集編で、ただ勝新が繰り返すお袋の回想だけが新しかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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撮影美術の充実ぶりが箆棒。本邦80年代でもこれだけ撮れたのだと嬉しい驚きがある。牢屋の低い天井、海際の三木のり平の居宅、勝新がうどん喰らう博打場の広い広い控室、露天風呂の雪のように美しい湯気、白く輝く狗尾草、天井から落ちる四角い光、燃え上がる提灯。真上から何度も撮るのは派手過ぎたかも知れないが気にならない。本作、色んな逸話が伝わっているが、スタッフがこれが最後と充実した仕事をしたのだけは間違いない。

話のネタも総集編であり、賽子を外に零すネタ、闇夜の殺陣で吹き消す提灯、子供の掘った落とし穴、風に転がる桶、赤ん坊を上に放り投げて敵を斬って赤ん坊をキャッチ、などすでに使ったネタばかりだが総集編ゆえ構わない。緒形拳との敵同士の交流も天知茂以来の切り口。はじめて鏡を見て草野とよ実が「おっ母さん」と呟き、「会えて良かったな」と勝新が喜ぶ件がまた、本シリーズらしい美しさに満ちている。乱暴されても彼女が鏡を離さないのが古典的でいい。

勝新が繰り返すお袋の回想は新しかった。彼の白髪交じりの頭髪や鬚は、語らずともこれが最後だと漏らしている。七光りの息子は魅力なく、事故は不幸(『東方見聞録』同様)、収束は駆け足に過ぎて満点にしづらいのが残念。血を吹きながらクルクル回って死ぬ内田裕也がいい見せ場。歌う松村和子は懐かしい。

(評価:★4)

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