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[コメント] 動くな、死ね、甦れ!(1989/露)

胸にスターリン、背中にはレーニンで観客爆笑。
saku99

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「動くな〜」「ひとりで生きる」「ぼくら、20世紀の子供たち」と、3本続けて見る。

入れ替えなしで1300円。すごいな、早稲田松竹。スクリーンでカネフスキー監督の主要作品を通して見られるなんて、なかなかできない体験だろう。

映画として一番成立しているのが「動くな、死ね、甦れ!」。 後の2作はこの作品ありきで作られている。

名探偵ガーリヤの神出鬼没、日本人捕虜に対する描写(当時はああいう侮蔑的発言は普通なのだろう)、ワレルカ少年のいたずらと逃避行などなど、印象に残る場面はたくさんある。

そして、一番の衝撃はラストのガーリヤの死と発狂して裸で踊りまくる女(ガーリヤの母?)

監督の声も入ってきて、物語映画としての作り方を脱構築して作り手の介在を示すなんて、なかなか前衛的だなとか考えつつ、次の「ひとりで生きる」を見た。

そこで考えた。「動くな〜」は、基本的にはリアリズムであり、現実の社会常識に照らし合わせても矛盾したところはない。ワレルカ少年のあふれ出るエネルギーを考えれば、いたずらや行動力も理解できる。ガーリヤはワレルカへの愛ゆえに居場所をつきとめる。発狂した元教授に対する周りの対応もおかしなところはない。

ただ、一箇所だけ、現実から乖離しているところがある。ラストの発狂した裸の女だ。ショックで頭がおかしくなったとしても、周囲の人間がそれに対し無関心なのはおかしい。裸で棒にまたがり、子供たちの前で叫びながら飛び回る。普通なら大人たちは押えつけ、家に入れて医者を呼ぶだろう。このラストだけ、一気に現実を飛び越えている。

つまり!このラストはありのままの現実ではない。

ガーリヤと一緒に、ワレルカも殺されてしまったのだ。銃声は2発聞こえた。そこで2人とも死に、ラストは自分の死に気づかないワレルカ少年の目を通した世界である。これは次の「ひとりで生きる」が、あまりにもシュールな世界で、意味不明なカットが挿入されていることからの推測である。「ひとりで生きる」は自分の死に気づかないワレルカの物語である。

タイトルの「動くな、死ね、甦れ!」。 実際にワレルカは死に、甦り、「ひとりで生きる」ことになった。

(評価:★4)

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