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[コメント] 十階のモスキート(1983/日)

話は定型だが内田裕也の脱線過程に味があるし警官の実態は詳細、マイコンほか風俗記録が面白い。不良少女キョンキョン曰く「外見だけで判断しないでよ」は当時の定番フレーズだったものだ。いまの不良も使うのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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地味な警官がストレス溜めて後半爆発というドラマ。予告編には「警察官逆襲」というサブタイトルがついており、安月給や昇進試験のストレスを訴える映画だったのかと思わされる。最後は法律暗誦しているし金喰っているし。社会人全般に向けた普遍性はもう一つ感じられない。警察システムが内部から朽ちる可能性の指摘なのだろう。あと、グレてから中村まいとよろしくやっているのは羨ましい思いしか湧かず、おかしいのではないのだろうか。不倫の在り方が現代とは違ったのかもしれない。

犯したのはアン・ルイスの万引きを偶然みて補導してアパートに引きこんで強姦して以降強姦3件。後はサラ金の踏み倒しと、競艇に狂って仕事に遅刻するぐらいで、『水のないプール』みたいな派手さはないが。

舞台は千葉の君津。内田裕也は巡査部長。講堂で所長の佐藤慶の訓示。「未成年者の不純異性交遊、校内暴力、新宿ディスコ殺人事件や覚醒剤による犯罪の激発」そんな時代だった。「世の中変化している」この科白は裕也と小泉今日子が文脈かえて引用する。「本日の重点目標、公僕として自ら市民に模範を示そう」そんな描写があればいいギャグなのに略される。所長はサラ金からの苦情電話受けて、しっかり日の丸バックに「平和な日本国をつくりあげる」と裕也に説教。隣で暴走族の面々は警官に柔道の技かけられている。巡査部長でも勤め上げたら退職金で孫連れて熱海の老後が待っているという説教は逆効果。

面白いのは当時の風俗記録。時代のトピックの描写は同時代だと空々しく見えるが時間が経つと味が出て来る。この意味で、映画が本当に鑑賞できるのは封切り時ではないのではないかと思っている。「消費者金融」はすでに問題になっていて『喜劇 家族同盟』(川谷拓三)が同年、『団地妻 サラ金地獄』が84年、『コミック雑誌なんかいらない!』は86年。本作の、わいら法律に守られてマンネンと云いながら取り立てに来る安岡力也というのは、教育的効果があっただろう。裕也は中盤ではそれなりに気にして借金の工面に回っている。

「マイコン」は非道徳、刹那主義の象徴として使われている。パソコンどっぷりの現代に見るとそんな視点もあるのかと思わされる。アーバンタイトルで秋葉原うろついて「マイクロコンピューター」のコーナーを見て回るのがいい記録。並んでいる機器は日本製ばかりだったに違いない。子供の座っている画面からタイトルが打ち出される。マイコンのカタログ眺めているとカラオケスナックママの宮下順子は「ガキの玩具じゃない」と笑い、実際に裕也はそんな使い方しかしない。

シャープ製買って十階アパートの絵描いて一度だけニカっと笑い、ボーリングゲームしておMANKOとたくさん書いて遊んでいる。強姦中もモニターが映り続ける。最後はプリントアウトされた用紙の山にまみれ、十階からモニターを路上に放り投げる。これはストーンズの『コックサッカー・ブルース』の引用(ツアー中のストーンズ一行はラリってホテルから路上に備え付けのテレビを投げ落としてグルービーと一緒に大笑いする件がある)。ストーンズになれなかった裕也さんの自虐に見える。

別れた妻の吉行和子は「ゴルフの会員権」のセールスでやっと生活していると嘆いてみせるが豪勢な生活。娘(14歳)の養育費催促されて、競艇でスってサラ金が裕也の転落の始まりだった。金セビりに来た娘の小泉今日子は、裕也にホコ天で踊るな非行の第一歩と説教されると「外見だけで判断しないでよ」と返す。これが懐かしい。当時の不良の抗弁の紋切型だった。今でもこんなフレーズあるのだろうか。無論、小泉が語るしっかりした将来像などろくなものではないに違いない。なお、彼女が踊るホコ天ではキャロルばかりがかかっており、ロックンロールクレイジー内田裕也としては気分悪いのではないのだろうか(キャロルが嫌いだったはず)。

最後は郵便局(銀行でないのが地方都市の味わい)強盗で拳銃ぶっ放して、事務机などどうでもいい処ばかり探すのがリアル。借金の50万円ほどだけを盗んで「何かあったらすぐに交番へ来てくれ。いつでも俺がいる」。まだ警官続ける積りなのだった。

趙方豪が裕也と同じ交番勤務で、最後は交番内で取立屋へ棍棒振るう裕也を止めて一緒に殴られている。裕也がひとりカップ麺喰っている視線の先にはテレビに元祖サンケイ文化人竹村健一が出ている。ビートたけしの予想屋のギャグがらしい。婦警さんの風祭ゆきが相変わらず別嬪。いいタイトルだが映像的には不思議なほど主張されない。初見かも。

(評価:★4)

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