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[コメント] PERFECT BLUE(1997/日)

今敏を出会い頭で嫌いになった作品
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







オレは竹内義和のすべてを知る者ではないが、ものの考えかたに大きな影響を受けた人間だ。1991年に刊行された「パーフェクト・ブルー 完全変態」は竹内さんの小説だ。背景には、1989年に逮捕された宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件がある。メディアによる宮崎勤の怪物化、それを引き金にこの国を席巻したオタクバッシングの逆風を、最前線でその身に受けたひとりが竹内さんであろう。

いったいメディアに何の権利があってそうなったのか判らないが、宮崎勤の部屋を撮影した写真が雑誌に載り、テレビで繰り返し紹介された。世間は呆気なく集団ヒステリーに狂い、ホラー、ポルノ、アニメなどとその愛好家たちは差別の標的となった。

宮崎勤は別に度を越したオタクではなく、そのへんにゴロゴロいる程度のオタクだ。ああいうビデオだらけの部屋に住んでるオタクは多かった。ビデオテープは場所をとる。おびただしい蔵書に埋もれた部屋に住む読書家は無視され、おびただしいビデオテープに埋もれて暮らすオタクは蛇蝎のごとく嫌われた。そういう時代があった。

「パーフェクト・ブルー 完全変態」をよくできた小説とはまったく思わないが、アイドルの熱狂的なファンが凶行に及ぶさまを、少なくとも半分は犯人の視点から描いていた。その純粋さ、幼児性、暴力性を痛みとともに描いていた。エンターテインメントのサイコホラー小説としては出来損ないでも、竹内さんは自分の中にある宮崎勤的なるものを見つめて血を吐きながらこれを書いたのだ。サイコホラーであること自体がすでに自虐的な総括でもあるという、いかにも捻れた、ブサイクな、しかし忘れがたい本だった。オレ自身にとっても、思春期に出っ喰わした宮崎勤事件とその巨大な波紋は最大級の衝撃だったのだ。

今敏のアニメ映画『PERFECT BLUE』は、小説とは全然違う。宮崎事件に対する、世間の側に立った作品だ。商売なんだから、そりゃあそうするしかないんだろうな。今作は世界中で高い評価を受け、後にダーレン・アロノフスキーにもマネされ、今敏は巨匠になり、オレは今敏を嫌いになった。

この映画が2023年になぜかリバイバル上映されたので、20数年ぶりに観た。後半の内容をほぼ忘れていたことが判明した。

悪人を理解不能のモンスターとしてしか描けない偏狭さ。殺人行為をナメきったピザ屋のくだり。無意味で安い、無数の映像的フック。テレビ、芸能界の現場へのド素人丸出しの妄想。他分野のプロフェッショナルへの侮り。すべてに客観的態度を装う度量の小ささ。以後の今敏作品にも共通するチンケさである。本当にチャンチャラおかしい、おヘソが茶を沸かしますよ。リバイバル観たから言ってるんじゃなくて、公開当時から思ってたことだ。

何でもかんでも嘲笑して小馬鹿にしてナメきって、いったい今敏は何が好きなんだ。何がしたいんだ。何がうれしいんだ。全然判らない。いずれ判るのかと思っていたら早逝してしまった。今敏を高く評価する人は多い。天才だという人もいる。オレは全然、そう思わない。呆れるほどに、どこまでも凡庸だと思う。

(評価:★2)

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