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[コメント] 遥かなる山の呼び声(1980/日)

日本版『シェーン』というふれ込みは制作者の仕掛けた罠だったのか(含『シェーン』『なつかしい風来坊』『家族』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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先につまらなかった処を書くと、まず、近親に首括る者がふたり(父親と妻)とは不自然、妙じゃなかろうか。高倉健の父の回想がいいものだっただけに、妻の回想は白けるものがある。嘘云っているのかと思った。それと、『シェーン』と関係ないではないか。いつ唾飛ばし競争が始まるのかなどと待っていたんだが。だいたい本家は牧畜業者が悪役だし。タイトルもよく判らん。

誉め処は当然倍賞千恵子で、出ずっぱりなのが単純に嬉しく、芯のある女性の造形から滲み出る喜怒哀楽のひとつひとつが心に残る。吉岡秀隆は本当は小人なのではないかと疑われるほど巧い。畑正憲の北海道弁は他を圧して見事。当たり前だが。健さんと鈴木瑞穂が隠れて会う件はここだけトーンが違って印象的。

幸福の黄色いハンカチ』と関連づけられているが、『家族』の後日談とも取れる(それなら廃業は無念だ。この三作、九州から北海道に出てくるという設定が同じ)。だが重要なのは『なつかしい風来坊』、客車で迎える驚嘆のラストの類似で、さらに悲劇の度合いが増している。有島一郎の道化を今度はハナ肇が担うことになる。いずれも、この道化で本当にいいのかという残酷が曰く云い難い。金持ちで女に手が早いというハナの造形がそれを緩めてはいるが、倍賞・高倉の感動作というには夾雑が激し過ぎる。

ハナの兄弟分の盃はマジだったのだ。だいたいこちらは『シェーン』の先入観があるからもう一度決闘に至るのかと思って観ているのに、農作業手伝ったりポニー買って遊んだり緩いことばかりしている。この造形とラストの善意には落差がある。しかしこれが不備とは思われない。こんないい人だったのだという飛躍がリアルだと受け止められた。ひょっとすると日本版『シェーン』という宣伝は、このラストを効果的にするために仕組んだ制作者の罠だったのかも知れない。

(評価:★5)

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