[コメント] ゾラの生涯(1937/米)
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その前半は何ということはない。川床で浮浪者が群れになっている描写は明らかにチャップリンの『街の灯』のオマージュだろう。傘ひっくり返る大雨の描写は、ここだけユーモア挿入するのが場違いに思われるが、当時のハリウッドらしい。重要なのは検察局長の呼び出しで件で、ゾラの「ナナ」ほかは下品だから売れた、「ジュミナール」は暴動の原因になった、(普仏戦争に負けた)軍批判は「この国の自信と敬意を奪っている」という検察局の批判は後半の裁判の予告になっている。セザンヌとの絶交の件は大人の絶交で面白く感じた。
映画が盛り上がるのはゾラの告発記事(文句はアベル・ガンスの『戦争と平和』を想起させる)で群衆が怒り狂う件で、本屋を焼き、広場で等身大のゾラ人形に放火して盛り上がり、本人は追いかけられる。現代のトランプ支持者のプラウド・ボーイズらもこんなものだろう。ものすごく一方的な裁判長の悪役振りが光る裁判も腹立つ。陸軍万歳の美名、侮辱は許されないという論法で軍の機密な何も出されない。
ゾラにもたらされた死の直前の認識はこうだ。「軍はあやつり人形だ。その背後に、国民を戦争に送り込む邪悪な影の力がある」「将来の戦争を止めるのを執筆の目標にする」戦争は悲惨のいち事象ではない、最大の悲惨だとの認識に至っている。
虚構であることはOPに断られている。私の知った範囲では、情報局長の左遷、ゾラ本人の有罪と英亡命、再審決定での帰国は事実らしい。一方、ドレフュスの釈放は特赦によるもので、無罪判決は1906年、ゾラは1902年に(co中毒で)亡くなっており、ゾラの無罪を知らなかった。
本作のベスト描写は無罪を告げられ地獄島の監獄から出ても信じられず右往左往するドレフュスだが、これは虚構だと知るとシラケるものがある。これらは映画をドラマチックにするための改編なんだろう。有名なユダヤ人問題には殆ど触れられない(最初の出鱈目な犯人指名で触れられた切り)はとても微妙な問題を孕んでいるように見えてしまい、一言で云って隔靴掻痒の感が残るのは残念である。
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