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[コメント] パリ、テキサス(1984/独=仏)

痩せた男の痩せ我慢。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







若い頃に観てヴェンダースが苦手になったきっかけの一本。30数年ぶりの再鑑賞で、星2から4へ評価を上げる。再鑑賞の機会をくれた「午前十時の映画祭」に感謝。めちゃくちゃハードボイルドな映画だった。

やっぱり、若い頃は何も分かってなかったんですよね。ナスターシャ・キンスキーですらよく分かってなかった。『テス』を観たのだって去年ですもの。あと、トラヴィスが、いや、『タクシードライバー』じゃなくて、この映画のトラヴィスね、彼がスパイクに似てるんですよ。スパイクっていうのは髭を生やして砂漠で暮らしているスヌーピーの兄貴ね。テス、スパイク。言いたいだけ。

こうやって、人生長いこと生きてると引き出しが増えて、自分の土俵に無理やり持ってこられるんですわ(笑)。そう言えば音楽はライ・クーダーだったな、当時無駄に流行ったな、とか、原作・脚本サム・シェパードってどういうことだ?お前がヒューストンにいたんじゃねーのか?『ライトスタッフ』だろ?とかね。

この映画は、兄弟、親子、夫婦の関係性が描かれます。成瀬巳喜男に『娘・妻・母』って映画がありますが、本作は「兄・父・夫」です。これ、それぞれに映画的な良いシーンがあるんですよ。

息子と車道を挟んで一緒に歩くシーンとかね。トランシーバーでの会話とかね。埋められそうで埋まらない距離感。映画ってこういうことなんですよ。

砂漠で兄を見つけた弟が、「街で服を買って来るよ。足のサイズは?」って靴を合わせて「1つ上のサイズだ」って言うじゃないですか。後々、兄貴が靴磨きして「ブーツ交換しようぜ」って言った後にトラヴィスは靴のサイズを比較するんですよ。私の見間違いかもしれませんけど、兄貴の方が靴のサイズが小さいと思うんです。見間違いか勘違いかもしれないのに勝手にグッときてるんですが、弟が嘘をついてまで、兄を立てようとしているんだと思うんです。

そして妻ナスターシャ・キンスキーとの対面。マジックミラー号、号じゃねーや、マジックミラー越しの再会で、ナスターシャ・キンスキーの顔にトラヴィス顔が重なるんですよ。 いやもう、映画的には、鏡に向かって、トラヴィスが自分自身に語っているんです。つまりこの映画は、見かけ上は妻や家族を探す話ですが、その本質は自分自身と向き合う物語だったのです。めちゃめちゃハードボイルド。ハードボイルドってのは男の痩せ我慢なのです。これは痩せた男の痩せ我慢映画。

(2024.06.02 池袋グランドシネマサンシャインにて鑑賞)

(評価:★4)

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