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[コメント] 赤ちょうちん(1974/日)

正に四畳半フォーク映画。この纏わりつくような自己憐憫の湿気たるや猛烈。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







高岡健二秋吉久美子の置き忘れた現金書留を使い込むことにより始まる同棲生活である訳だが、その弁明が何もないのがまず判らない。高岡は「過保護のドチンピラ」、仕方のない野郎という設定なのだろうか。なぜそんな奴を主人公にするのか、よく判らない。

その後も、部屋に押しかけた長門裕之秋吉久美子とふたりきりにして仕事に出かけるわ、その割に長門との関係を疑うわ、秋吉に子供を堕ろせと迫るわ、秋吉を殴るわ、秋吉の祖母死亡の電報を隠すわ、等々、非行の連続であり、なぜこんな不愉快な男が主人公に居座り続けるのか、よく判らない。

よく判らないままにドラマは進み、秋吉の狂気発覚で終わる。これは何なのか。ああこんな下らない男に付いてくるのは病んでいる女ぐらいなんだなあ、とでも解せと云うのだろうか。とんでもない話である。こんな下らない男と一緒にいたら病気にもなるわなあ、ということならまだ判るが、それでも狂気を軽々しく扱い過ぎである。

ラストで自己憐憫丸出しで赤ん坊を背負う高岡は、身から出た運命を背負うかと思いきや、何とまた逃げるように引っ越してしまう。最初から最後まで底無しの屑である高岡のような屑が世間に存在するよと映画は云いたいのだろうか。それを映画にして何になるのだろうか。それとも映画はこのアンチ英雄はお前の似姿だと観客を挑発しているのだろうか。それなら空振りだ。高岡のような男に自分を反省するような理性はない。無論、私小説的な自己断罪ではなかろう。演出の端々に覗くナルチシズムと被害者意識(例えば悠木千帆の一件)はその真逆を志向しているのだから。

TVドラマ程度の演出は無惨であり、才覚の感じられたのは割られた窓硝子に貼りつけられる押しつけられた弁償代の千円札のみ。最悪に不愉快なのは長門の集団暴行半殺しであり、「死にやしなかっただろう」と嘯く河原崎長一郎は逮捕でその倫理観欠如を罰せられたとは云えるが、高岡に対して映画が何も責めを負わせないのも、その後の長門のフォローがないのも信じられない。不愉快な映画は★1にしている。

(評価:★1)

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