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[コメント] 妹(1974/日)

旭日旗の王冠目に嵌めてソープ嬢にだけ告白を始める「器量が悪い」秋吉久美子。本作は図式的で判りやすく、苦手な敏八映画の観方が呑みこめる処があった。この主人公総否定は若松=大島的作劇の延長にある。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







秋吉久美子は同棲相手を捨てて、鎌倉から兄林隆三がひとり暮らす実家に舞い戻る。一緒に彼氏もいなくなり、彼の兄弟に呼び出されるが秋吉は何も語らない。林が彼氏の妹北河多香子を強姦して、秋吉は居づらくなり焼き鳥屋の二階に引越し、ここで同居人のトルコ嬢片桐夕子に彼氏殺害を告白する。知らない林は正式に結婚しろと鎌倉に送り返すが、秋吉は失踪する、という筋。

林は秋吉を追って来た同棲相手の妹北河多香子を服洋服破いたまま路上に放り出す。商売の引越し屋の顧客ひし美ゆり子にはめられたらしく、荷物の下着ひっくり返して悦び、引っ越し代替わりと体与えるひし美に応じる(秋吉思い浮かべて事に及ぶ林には近親相姦のニュアンスまである)。

そして北河を鎌倉に訪ねて公衆便所に押し入って強姦し、俺たち兄妹には淫蕩の血が流れていると語り、この件が秋吉らに知れて逆切れする。陥れられたんだと云い訳するのだが、こちらにはそういう前振りは見えない。彼らしいナイーブな造形なのだが、やっていることは強姦マシンのようなものだ。戯れに軽トラで実家の店内にいる秋吉に追突しかかる林という奇怪なアクションもある。

林に抱きつく伊丹十三(女など放っておいて我々は自己完成に努力すべきだと云いながら)は妻に見られてしまって一家心中という速攻の展開を、映画は劇伴とともにコメディ処理している。ホモ嫌いなのだろうが、やる奴はやられるという林の強姦の因果が巡っているのだろう。

そして秋吉の片桐への彼氏殺害の告白。そのとき岩場で強姦されかけたことが「軽蔑してる」「なにすんのよ厭」と音声だけで示される。そして崖下に突き飛ばしたのと語る浴衣着た秋吉は、ビールの旭日旗の王冠を両目にひとつずつ被せて鏡に向き合う。これはもう、日帝批判に他なるまい(林が強姦時にかける、愉快犯を表した玩具の眼鏡と比較されてもいる)。そんなの大したことないわよと応える片桐は、毎日何人もオトコ殺していると嘯くソープ嬢。これは従軍慰安婦の会話だろう。

人殺して大したことないと云うには、そんな隠喩でしか考えられない。立ち聞きしていた片桐の母初井言栄は慰安所の女将みたいなもので、片桐に喋ったらただじゃすまないと脅されている(清順『春婦伝』でコリアン慰安婦を演じた初井は狙った配役だろう)。続いて林に連れ戻された秋吉はなんと、「星の流れに」を唄うのだった。伊丹の葬式で弟の村野武範が脈絡なく「戦死って感じなんだよな」と呟くのは、以上の解釈を補完してくれている。

死んだ相手と知らずに、鎌倉に戻って結婚しろと亡母の花嫁衣装着せる林の四畳半フォーク的な優しさは、見事に空回りしている。空回りを知りながら何も云わず、ただ封建的な旧慣に従って涙を流す秋吉は、強姦オトコに告白しても仕方がないと、身の不幸を人知れず嘆くのだ。彼女は鎌倉から失踪して尼になり、坊主と駆け落ちと伝えられる。

片桐は林に秋吉を探すなと云うが、林は探す。それは何か懲罰のニュアンスがあるが、彼は自分も加害者であるとは一生理解しないだろうという、突き放したものだった。屋台で秋吉の消息を追う林を捉えて主題歌が流れる。「あいつ(同棲相手)はとてもいい奴だから、どんなことがあっても我慢しなさい」。なんというイロニーだろう。我慢しなさいと諭して娘を売る親と、林は同じだと云っているのだ。

「妹よ、お前は器量が悪いのだから」というヒット曲の映画化の主演に秋吉という絶世の美女を当てるキャスティングからして、曲を小馬鹿にした確信犯ぶりが窺えるのであり、こんな四畳半リアリズムな曲に没入するようになった世情への非難と受け止められた。兄妹に残された食堂が地上げで撤去されるのに林は抗い切れずに従う映画でもある。腐った味噌汁とか潰された蚊とか、敏八の登場世界否定の細部もいつも通り徹底している。

序盤、高円寺南三丁目をうろつく風景の記録が面白い。河川敷埋めた横長の公園は桃園川緑道だろうか。安アパートが大量にあり、学生がうろうろしている。私の叔父も山手線の反対側の大学に通うのにわざわざ高円寺に下宿していた。あれはなぜなのだろう。冒頭、天井が崩落する地下鉄早稲田駅のオンボロ具合は、現在の名古屋地下鉄を想起させる。続く電話ボックスに敏八は「日帝反対闘争」の破れた貼紙を貼って、映画はシラケた早稲田の町を記録している。

(評価:★5)

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