[コメント] ある映画監督の生涯―溝口健二の記録(1975/日)
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渋谷の映画館で新藤兼人特集をやっていた時に観た。この作品上映前に新藤監督のトークショーがあり、監督がこの映画絡みのこぼれ話を2つ披露していた。
まず1つ目。ラッシュを観た田中絹代が、試写が終わるなり試写室をバッと飛び出していったということ。新藤監督は「メークもなしの素顔の自分が映っているので驚いたのだろう」と言っていたが、そんな言葉に騙される私ではない。
監督は「溝口健二監督はあなたと関係していたのか」ということを田中にインタビューしている。田中は「それはない」と断った上で、溝口とのことをあたかも一片の美しい思い出のように語っているが、新藤監督はそれを無視するかのように、その後の質問でもあくまで男女関係という下世話な話題に拘泥している。不粋と言う他ない。
トークショーでもこの話題になり、「熊井啓監督は、それ(関係)はなかったんじゃないかと言ってますが」という聞き役の人に対し、監督は「いや、私はあったと思います」と、あくまで自説にこだわっていた。だから、そんなことどうでもいいじゃん。
こぼれ話のもう1つは、この映画を作ったために溝口の遺族から訴えられそうになったということ。「溝口監督は公人だから、ある程度プライバシーに踏み込むのはやむを得ない」と説明して収まったということだが、そりゃ訴えたくなるわな。田中が訴えなかったことの方が不思議なくらいだ。
この作品では、田中以下39人にインタビューを行なっているが、インタビュアーの新藤監督が相手の話を遮って質問をしたり(しかもその質問がよく滑るんだこれが)、インタビュアーのくせに相手より多く喋っていたりで、いいところなし。
ただし田中の他、山田五十鈴・京マチ子・木暮実千代・入江たか子、そして香川京子など、溝口作品に出演した女優の素顔を見ることができるのは貴重かも知れない。よっておまけで3点とする。
しかし、こんな内容で小津安二郎のドキュメンタリーが作られることは、万が一にも起こらないでほしいものである(未見の『生きてはみたけれど 小津安二郎伝』がそうでないことを祈るばかり)。
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