コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] なみだ川(1967/日)

穏やかそうな登場人物たちが政治犯の戸浦六宏だけは罵倒しまくるという演出がとても異様。時は60年代、周五郎による政治嫌いの庶民の代弁といったところか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作は「おたふく物語」、丸顔美人をおかめの三枚目に見立てる映画はよくあるが、あざとさが出るものだ。本作は藤村志保が切望した作品、役柄だったらしく、それなら文句云うのも野暮なのだが、いちいちことわざの云い間違いで周囲に笑われているのは、見ていて面白いものではなかった。本間文子の婆さんほか、何もあんなに笑わなくてもいいのにと思う。演出がヒステリックなのだ。それは政治犯の件で爆発している。

兄の戸浦六宏は「国学の本を持っていただけ」で捕まった前科者で、その後も「天下のため、貧乏人のために」金をせびりに来る。家族の厄介者で、藤村に縁切りを書けと云われてほいほいと書いて、それでもまた金取りに来る。穏やかそうな藤原釜足のお父さんはじめ、周囲は彼のことになると俄然罵声を浴びせ始める。これは何なのだろう。

戸浦を「定職に就かず道楽三昧」とは映画は語っていない(原作はそうなのかも知れないが、映画が描写しない処を原作で補ってはいけない)。本当に活動家なのではないか。戸浦はこれは世直しだ、家族より施しが大事と主張し、それなら家族にせびりに来るなと藤村に諭されている。この程度の理屈に云い返せない戸浦もちょっと頼りない。

任侠沙汰の後で去る戸浦に藤村は別れを惜しんでいるニュアンスも微妙なものがある。罪を憎んで人を憎まずというところだろうか。保守的な大映が、正義漢など所詮疑わしいという描き方をしていると受け取った。周五郎もそんな作家だろう。しかし依田がこれに付き合うのは意外な処がある。

藤村など鼻も引っかけなかった細川俊之が最後に、この戸浦との一件に遭遇して殊勝になり、藤村を受け入れることになるのだが、これもどうにも合点がいかなかった。短刀振り回す藤村を見て恐れをなした、というギャグなら面白いのだがそうでもない。このふたり、結婚したとしても上手くいかないと思う。

安部徹は相変わらずの役処。撮影美術はいい。冒頭の藤村の階段からの転落を、壁の向こうの階段の落下のパンと音だけで示すショットが面白い。ふたりの姉妹が蚊帳吊って眠る件の、窓辺に影を投げかける照明がとても上品で良かった。目黒は片田舎という描写も面白かった。

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。