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[コメント] イル・ポスティーノ(1995/仏=伊)

郵便の映画。そんなことはタイトルからも当たり前かも知れないが、もう少し突っ込んで考えると、手紙の映画と云いたいところだけれど、手紙以上に音声を伝えることに収束する映画なのだ。
ゑぎ

 例えば、手紙や書簡、メモの類いが沢山出てくるのに、トリュフォーみたいな文字を記すという所作の映画にはせず、もっぱら読み上げるという音に置換して描写する。そして古いカセットテープのやりとり。

 美しい海と空を定着した撮影と甘美な劇伴。感傷的なプロット展開と詩(隠喩)を取り扱った高踏と云うと云い過ぎかも知れないが文学的な科白の数々。このような特徴もあって人気が高い作品なのだろうと思うのだが、私は撮影も音楽も平凡と感じた。撮影で云うと、手持ちのショットとフィクスのショットの選択基準が良く分からないのも気持ちよくなかった。例えば郵便局での主人公マリオ−マッシモ・トロイージと郵便局長ジョルジョ−レナート・スカルパとの場面は多分全て手持ちショットだったと思うが、なぜこれらの場面が手持ちなのだろう。その他の場面は混在するが、特に、パブロ−フィリップ・ノワレの場面でフィクスだったり、手持ちだったりするのが恣意的に感じられた。例えば、マリオがパブロのところに来て、恋をしたと云う場面。詩を作ってほしいと頼んだ後、2人が、海の見える崖上で会話する。こゝが手持ちなのは、2人の動揺する心情を反映しているのかと推測するけれど。

 撮影で良かったのは、2回ある島の酒場の俯瞰ロングショット。いずれも、ゆっくり移動して見せる。クレーン撮影だろうか。1度目は、このショットの後にヒロインのベアトリーチェ−マリア・グラツィア・クチノッタを登場させるという意味で、特別感のある導入演出になっている。このベアトリーチェとの出会いの場面は全編でも突出した部分だろう。こんな女性を皆放っておく訳がない、と思ってしまうが、そういった類いの展開がないのは期待が外れた。

 また、パブロから島の美しさをテープレコーダーに吹き込むように云われたマリオの一言には素直に感動する。あと、ベアトリーチェの母親が、マリオの詩の内容から、娘に手を出したと思い込む描き方が可笑しいし、それを助長する神父の役割もいい。このあたりは、本作のチャームポイントだろう。

 そして、終盤になり、マリオとベアトリーチェの恋愛譚が収束し、パブロも退場したとなって、この後何を描くのだろうと思わせるのだが、この取ってつけたような帰結の見せ方、特にフラッシュバックの中の混乱の描写がイマイチだと思った。これは、マッシモ・トロイージの体調の影響もあったのかも知れない。そういう意味では、自転車での郵便配達を描いた映画なのに、全編どこにも、自転車を映画の幸福の象徴として使ったシーンがないのも、それ(彼の体調)が影響しているのだろうか。結果的に成果物としては、残念な出来だと感じる。

(評価:★3)

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