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[コメント] 渚にて(1959/米)

レティサンスの古典的名作でとても面白いのだが、セレクトされた逸話がいいものだったかは微妙だろう。ラブロマンスばかり描かれる訳で、それが三態も必要だっただろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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黙説法(レティサンス)なのだから暴動があったはずだ等々の批判は無効。あったかも知れないが映画は描写を積極的に省略している。別に全てを客観的に記録するのが映画じゃありませんよと全体として主張している。本作は有事に際して誇り高くあることが主張されており、誇りのない振舞いは削除されている訳だ。すでにヌーヴォーロマンの時代なのだからこの位の技法はあって当然だろう。

しかし、ロマンチックな主題歌に乗せてラブロマンスばかり描くのが面白いかと云えばそうでもなかろう。アンソニー・パーキンスのキャメラ目線でとばすギャグとか、バーの扉の開閉の度に傾ぐ額縁とか、やり過ぎのようにも見える。潜望鏡から垣間見るシスコの坂は面白くない。ああ早朝に撮影したのね、としか思えないのだ。発電所の放浪もモールス信号の主もイマイチ冴えない。

いいのはフレッド・アステアのカーレーシング趣味で、殺伐としたレースは心情の客観化として見事で、彼ひとり(原因を生んだ科学者なのだ)が生き残って勝利するのも皮肉、牛の乳がでなくなるという批難が何気に主題に命中しているのが上手い。最期の好きなことして死ぬ中毒自殺は天晴である。

本作にはキューバ危機前夜(1962年。小説はスエズ動乱の影響と云われているらしい)など当時の世情が真空パックされて詰まっている。本邦でも「終末から」なんて雑誌があったのは有名な話だ。ラストの一転グロテスクな音楽による「There is Still Time…Brothers.」の横断幕の強調は印象強烈だった。

五か月で到達する放射線とは正しいのだろうか疑問。私の観たものは字幕でradiationを「放射能」と訳し続けていたが、もちろん誤り。「放射線」が正しい。こんな知識はフクシマ以降のものだ。

(評価:★4)

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