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[コメント] ムトゥ 踊るマハラジャ(1995/インド)

銭湯が生き残りのためにスーパー銭湯に変身したが、そこに過去の遺産の匂いは失われていた。だが、この映画は全てのカテゴリーの遺産をフルに活用しながらも自分の独自色、自国の文化を主軸に置いて展開するエンターテイメントの塊、すなわちスーパー映画。全てを壊すのではなく全てを受け入れ全てを見せる考えは釈迦が仏教を始めた地だけに鋭い。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







3時間ちかくでありながら青山真治監督がタイタニック越えを目指して作った217分もの大作である『EUREKA』を見終わった時と同じ感覚に。つまりは時間が短く感じられた映画であった。単に面白さではそれは醸し出されないものであり、物語の堅牢さがズバ抜けてないと得られない感覚。それがこの映画にダンスしながら存在していたのを必死に、ひたすらに凝視していた。

「どこを切っても映画だぜ」←これ最強。

太陽幕末傳』の居残り左平次や『男はつらいよ』の寅さんに板東妻三郎の汗くさい演技に、ブルースリーとジャッキーチェンを掛け合わした理想の野郎が主人公で、西部劇よく栄える質素な衣裳をリスペクトしたような腰に巻いたタオル、MGMの全盛期に作られたミュージカル映画全ての光を再現しつくす勢いの舞踊の連続、女優は美人だし全ての登場人物に味がありすぎるわ、ボリウッドの姿勢である、濡れ場を回避するために踊りでソレを想起させる作りを目指す、その強く逞しい作り手の健全さに脳がやられた。

さらに、しっかりとノームチョムスキーや、今だったらマイケルムーア並に自国を的確に捉えながらも、肩肘張った内容にしないでハッピーエンドが似合う結末までの運びを考える彼等の、デフォルトで二桁の掛け算がある脳神経を解剖し、自分の脳に組み込みたい気持ちに駆り立てられた。また、愛憎劇やらしたら右に出るものが居ないチャンイーモウ級にちゃっかり愛憎劇を入れつつも、愛する気持ちを忘れない結末を用意できる映画ってそこらに普通に落ちてないし転がっていない…はずなのにもかかわらず、インドでは毎年800〜1000本以上もの映画が作られていて、これが、このレベルが普通だと言う事実にただただ驚愕…。

突然だが、もし、もしもインドに、インド版CinemaScape−映画批評空間−があったらどうなるんだろうか。登録本数がまず何本になるのか見てみたい。登録リクエストだけで普通に1万で、登録本数が100万本までいっちゃうかもしれない。それに9割9分が平均点4〜5点だと想像されるので、「あなたにおすすめ」なんてのは意味が無くなるのではないかと思ってしまう。……と、このように話が脱線し、こうも妥当な発想なのに「突飛な発想?」と勘違いするほどに、この映画は忘れかけていたエンターテイメントの定義を思い出させてくれて、その定義と自分の殻を壊してくれた気がしてならない。

映画という枠にとらわれないで突き進む勢いそれ自体の純粋さに心打たれ、独りタオルを首にまきつけながらムトゥの真似をしてみた、とても晴れた昼のひとときであった。

2003/5/21

(評価:★5)

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