[コメント] アパートの鍵貸します(1960/米)
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舞台となるのは生命保険会社。オレは生命保険とは本質的に詐欺だと思っている(保険関係の方々すみません)。奴らは人々を騙して儲けた金で巨大なビルを建てたわけだ。広大なフロアは地平線までデスクが並んでる。そんなバカな。ジャック・レモンを含めてそこにいる誰ひとり、マジメに仕事してるようには見えない。スーツにネクタイ、ソフト帽でサラリーマン風コスプレをしているものの、何やってんだか判らない。植木等の無責任シリーズにおける「会社」と、現実感のなさにおいては大差ないように見える。そして彼が一生懸命やってることは、部屋貸しの予約整理なのだ。貸した部屋では、汚いおっさんと汚い姉ちゃんの、クソ爛れた技巧のないセックスが繰り広げられる。ベッドやソファには、誰のものだか知れぬ体液が染みこみまくりである。寒空に待たされてから帰宅した主人公は、まず窓を開けて換気する。自分の部屋に残された、どこぞのおっさんの濃厚なセックス臭。これはキチャナイ。つくづくキチャナイ部屋、キチャナイ人生なのである。
どう見ても大した仕事をしてない連中が神殿のような巨大建造物の中で働くフリをし続けて、若手の平社員のくせにアパートの部屋は広々として、テレビもあればレコードプレイヤーもあって、飲み屋はド深夜まで賑わっている。ああ、これが好景気というものか。わたくし30年も好景気に縁がないもんで、すっかり忘れてた。この映画に出てくるおっさんは全員が若い女とのセックスに励んでおり、どいつもこいつも躁状態で浮かれている。狂っている。主人公は右往左往して成長した結果、生命保険会社の出世コースを降り、おっさんどものシモの世話を辞めることで小さな幸せを掴む。「人生は長い。こんな躁病みたいな世の中が、いつまでも続くわけがない」というビリー・ワイルダーのボヤキを聞いたような気がした。
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