[コメント] 渚のシンドバッド(1995/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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とにかく教室風景がよく撮れていて、まるでタイムスリップしたような感覚を味わった。たとえば教室をとりしきる女教師のたくましいこと。ふつうはカメラが動いていれば、どんな役者でも意が働いて構えというものが多少なりともあるものだが、それがこの役者には全くない。これは役者の力量によるところが大きいが、もちろんキャストと全体の構成を取り仕切る監督の英断があってこそ、ともいえる。こんなサブキャラの面々にも魂が宿っていて、なおかつそれらが一体となって一つの生命のように蠢く姿には圧倒させられる。
ところで、いやがる妹の目の前でタバコをふかすほどには自己の欲望に率直ではありながら、同情と恋慕を見紛うほどにはふがいない“好い人”吉田くんは、同様に己のかかえる問題に真にたちむかっているとは言い難い二人に、一方的に非難されるほど駄目駄目だとはおもえない。「同情ファシスト」なるものが嫌いだということはイヤというほどわかったが、考えてみれば、それはなんと贅沢な要求であろうか。同情や偽善的なものであろうと、意中の人物になんらかのリアクションを、なんらかの通じ合う瞬間を与えられたいと願っている人間が、どれだけいると思っているのか。むしろ、少しでも通じ合える二人が、互いに気を遣いあってすこしでも長く時を過ごせるならば、それはそれですばらしい。純愛をめざす方々からは否定されようと、それも一つの恋の形だ。そして現実的には、そのような恋でわれわれの住む世界はまわっているといって過言ではないだろう。
うつくしい理想論をかかげて、性的受難者の少女の口をかりて男女の性行為を否定してみても、それはむなしく響くだけだ。それは、まっとうな性生活を断念することを余儀なくされたものの叫びというよりも、同性愛者による異性間の直接的肉体関係にたいする侮蔑であろうことをはっきり申し上げておく。
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