コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] デッドマン(1995/米)

死人を主人公に、死の先の世界が描かれているように思える。その雰囲気を作り出すジャームッシュのテイストに、ジョニー・デップの気だるい表情やニール・ヤングの即興ギターが見事にマッチしている。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 冒頭、汽車の中で疲れ切った表情を見せているジョニー・デップを見て、ジャームッシュ作品らしいモノクロ映像の雰囲気を感じて、映画への期待度が一気に高まった。そして、それはそのままエンディングまで持続してくれた。

 この映画はタイトル通り、死人の物語だと思う。デップ演じるウィリアム・ブレイクは最初に銃弾を打ち込まれた時点ですでに死人だと思う。それ以前の会社に雇ってもらえないエピソードでは、まだ生きている人間としてブレイクを見ることが出来るが、生きてはいても先に希望など見出せない退廃した印象が強い。死人のブレイクはインディアンのノーボディとともに旅をするが、ブレイクが旅の過程で以前には考えられなかったほどあっさりと人を射殺する姿を見ていると、もはや死に対して何の感覚も持ち合わせていないように見え、ブレイクが死人であることをより一層感じさせる。ロビー・ミューラー撮影のモノクロ映像やニール・ヤングが奏でるエレキギターの音は、静かながらブレイクが旅する過程を生の世界よりも地獄のように感じさせる。

 最終的に弱った状態で海に流されるブレイクだが、死人の彼が再度死んだかどうかははっきりと明示されずに映画は幕を閉じる。力が抜けた様子のデップの表情や海の上に広がる曇り空は、死の先にあるものとは何だろうという余韻を残してくれる。ジャームッシュは『ダウン・バイ・ロー』では既存の逃亡劇を批評しつつ、監獄のようなアメリカを描いたが、この『デッドマン』では既存の西部劇を批評しつつ、腐敗したアメリカの姿を“死”というテーマまで交えて独特に描いた。アメリカン・ニューシネマでは終盤でアメリカンドリームが崩壊して結末を迎えるパターンが多いが、ジャームッシュはアメリカンドリームが崩壊してしまったあとのアメリカの姿を描いている。何も起こらない中で映像から伝わる雰囲気は無力感に覆われているように思える。『デッドマン』はその辺が如実に表れている映画だと思う。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。