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[コメント] デッドマン(1995/米)

アウトサイダーを描く映画作家は少なくないが、ジャームッシュのように独自の語り口を持っている人は少ない。彼はしばしばわかり易い既存の物語の枠からはみ出してしまう―

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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けれども、アウトサイダーとは、たいていの人が理解できる物語の外にいるからこそアウトサイダーなのだから、彼らを語るには、逸脱した語り口が必須なのだ。そうした新しい語り口の発見にこそジャームッシュのオリジナリティがある、と私は思う。

西部の最深部、その最果ての町。撃たれたブレイクが文明世界を離れ、原生林へとさ迷い出した時、逸脱の物語は語り出される。ジャームッシュのあまり出来のよくない作品(『ミステリー・トレイン』のような)には、ただ定型的な物語をはぐらかすだけの、拡散した印象しか残さないものもあるが、ここでは見事に結晶化している。森と一体化したブレイクがガンマンとしての本能に覚醒するように、道を外れたジャームッシュは霊感だけを頼りにアウトサイダーの詩を綴ってゆく。そこには、定型的西部劇には決して描かれない新世界の静寂が広がっている。

「死人」というタイトルにはいくつかの意味がある。名無しの男がブレイクを死んだ詩人の幽霊だとカン違いするからであり、撃たれて瀕死になっているからでもあり、そして、この世のどこにも居場所を失っている彼は死人も同然だから、でもある。

最後に、ブレイクは空と海の境目に溶けてゆく。浜辺では善と悪が対決しているが、彼は善悪も生死も超えたどこでもない場所へ消えてゆく。ジャームッシュはどんな既存の物語も拒絶する。それ故に、彼はアメリカという、旧世界から隔絶した土地の精神風土を描くことに成功した、と私は思う。

(評価:★5)

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