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[コメント] 最前線物語(1980/米)

本作こそが戦場のリアリティと言えるのかも知れません。だからこそマーヴィンの格好良さが映えます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
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 異色西部劇や暴力映画で知られたフラー監督が作り上げた戦争映画。かなり一般的に薄められてはいるものの、容赦なく人を殺すシーンや暴力描写など、極めて乾いた描写で監督らしさを見せつつ、バランスの良い作品に仕上げられている。どうやらこれは第二時世界大戦に従軍したフラー監督の自伝的要素が入っているためらしいが、それを完全に消化し、今まで自分がしてきたことを普遍化したお陰だろう。戦争における善悪と言うことを客観的に捉えている。

 どこかで読んだのだが、フラー監督は「戦争とは狂気、完全な狂気であって、ただ違うのはその狂気が組織化されていることだ」と語っていた。だが、本作において、それは極めて冷静ながら、戦場の出来事にはただ残酷なだけでない一面も伝えているのではないだろうか。確かに戦争は、闘っている当事者にとっては、自らの命を的にしつつ目の前の敵を倒す作業であり、そこに感情はなるだけ加えようにしなければならないはずだ。それこそマーヴィン演じる軍曹が「生き残るためには敵を殺すこと。殺人ではない、ただ殺すだけだ」と言ってるとおり。だが前戦から離れるに従い、機械的な面は薄れていく、戦時中は戦場を離れても兵士は兵士たらんとするか、あるいは人たらんとするか。どちらをとっても悲劇は起こりえる。本作の本当の見所はその狭間を描いたところにあるのかもしれない。その狭間で悩むことこそドラマになる。

 そう考えるのならば、最後に軍曹が自分が刺した兵を介抱するシーンは単なる感動的な描写なのではなく、実はあれこそが冷徹な現実というものだったのかもしれない。

 フラー監督の他の作品はその辺のさじ加減が暴走気味になりがちなのだが、本作は本当に旨くバランスが取れていたと思われる。

 勿論この乾いた演出は戦場でこそ本当に映える。ばたばたと何の意味もなく倒れていく人の群れを描かせたら、やっぱり一級品だよ(その後の『プライベート・ライアン』(1998)ではそれ超えてたけど)。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ジョー・チップ[*]

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