[コメント] 偽牧師(1923/米)
さらに脱獄犯という設定なのに、少なくも本作中はほゞ善人として描かれていて(逃亡のために牧師の服を盗む場面はある)、彼が体現するちょっとブラックな面白さもない。だが、序盤からしっかりとした撮影と編集で、映画らしさは息づいている。また、本作は主にテキサスを舞台とする西部劇と云ってよく、西部劇らしい開かれた空間のスペクタキュラーもいくつかの場面で感じられる。
編集の面白さで云うと、開巻から掲示板に貼付される手配書へのディゾルブ寄りとアイリスアウト。アイリスインして川岸で囚人服を手に取る男(これが真の牧師)へのポン寄りのカッティング。駅の場面で牧師姿になって登場したチャップリンは、駆け落ちの男女と絡むのだが、唐突に女性の父親の運転する自動車が挿入される呼吸もいい。また、列車に乗ったチャップリンを放ったらかしにして、先にパーヴィアンスやマック・スウェインらのいる町の様子(教会のロビー)を見せるという構成。そして、助祭のスウェインとチャップリンが教会へ歩いて行く後ろ姿のショットはとても良いパースペクティブな画面だ。こゝで、2人を追うように、途中からカメラが前進移動するのにも驚かされる。
この後、教会のコーラス隊の席を陪審員席と見紛うというギャグやチャップリンの説教(ダビデとゴリアテの話のパントマイム)も悪くないが、しかし、本作の一番の笑いの見せ場は、パーヴィアンスの家に招かれてからの、もう一組の客(夫婦とその子供)との騒動だろう。小さな男の子のヤンチャぶり。ケーキに被せた帽子の顛末と子供のお父さん−シドニー・チャップリンの愉快な反応。本作の最も笑える瞬間は、私もこのシドニー・チャップンのアップの表情だと思う。この後、チャップリンと、かつて刑務所仲間だった悪人−チャック・ライスナー(チャールズ・F・ライスナー)とのパーヴィアンスの母親の金をめぐる攻防戦もよく見せてくれる。
<以下ネタバレ注意!>
そして、ラストシーンについて。いまいち映画的な話ではなくなってしまうが、私はこのラストを全然単純なハッピーエンドとは思えない。とても複雑な心持ちにさせられるエンディングだと思う。チャップリンを連行した保安官は、確かに善行を認めて情けを示し、放免してくれたには違いないが、ただし、国外追放だ。まるでチャップリンの未来を予見するようじゃないか。本作プロットとしても、せっかく仲良くなりかけていたパーヴィアンスと、もう会えないのだ(危険を冒して会いに行くかもしれないが)。さらに、メキシコでは銃撃戦が始まるという戯画化された演出。この後の国境を使ったチャップリンの振る舞いも象徴的に感じる。
#備忘でその他の配役などを。
・列車内のチャップリンの隣に座っている大男はヘンリー・バーグマン。町の住民でチャップリンを歓迎する人たちの中にフィリス・アレンがいる。
・ヤンチャな子−ドゥインキー・ディーンは悪役チャック・ライスナーの実子。親子とも、将来、映画史に残る監督作・脚本作を残す。
・シドニー・チャップリンは冒頭の駆け落ちする男性と駅員も含めて3役。
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