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[コメント] アイズ ワイド シャット(1999/米)

本作に不満があるとするならば、それは自分自身に対する不満やコンプレックスを突きつけられているが故であると確信する。→
むらってぃ大使

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







究極の映像美と、そこに含まれた毒と痛烈な皮肉。

NYでの最高に贅沢な暮らし、そこに住むのは嫉妬するのも諦めるくらいの美男美女カップル。

物質的にも社会的にも何不自由なく暮らしている彼らの、しかし満たされない部分というのは、世の中の他の誰とも変わらない内面の空虚さと性欲に過ぎない。

本作がキューブリックの遺作となってしまったわけだが、彼がこの作品で描いたテーマというのは他のどの作品よりも恐らく普遍的で、だからこそつまらない、と思う人も多いのかもしれないが、私はこれを観てしまった後、他の作品が全てこけおどしに見えてしまうのではないか、と危惧するほどに心を動かされた。

現実というのは、それが物質として目の前にある、ということだけを意味するものではない。

自分自身が目の前にあるものを、これは現実なのだ、と認識することで初めてそれが実感となるのだ。

この作品の中での強烈な体験である問題の館の存在というのは、描写はあと一歩で陳腐なものとして扱われかねない危うさを持っているが、実際に起こっていることとそれを現実として体験する、ということの違いを語る上で極めて重要な存在だ。

自分自身を信じること、そして自分自身という存在を信じてもらうこと。

人間が存在していく上での最も重要なテーマを、彼が「性」というテーマで描いたことは退屈なアイディアではなく、彼がこの退屈な世の中を表現するための唯一の手段であった、ということを意味している。

彼のストイックというよりは、社会を嘲笑する手法は、この作品において最も昇華されたと言わなければならない。

それに不満があるとするならば、それは自分自身に対する不満やコンプレックスがあるのと同じ意味であるとすら言えるだろう。

(2002.9.1)

(評価:★5)

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