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[コメント] 道(1954/伊)

現時点で最高点はあげません。それは10年後くらいに観直した時に取っておきます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 言うまでもなくイタリア映画界を代表する偉大な監督フェリーニの、恐らく最も愛されているだろう作品(当時流行っていたネオ・リアリスモからは「象徴主義に陥った」と酷評されていたらしいが)。

 少なくとも私にとってこの作品の面白いところは、観た時のみならず、後々までも印象が変わり続けるという点にある。

 実際私がこの作品を初めて観たのは、確か未だ思春期まっさかりの時期だったが、はっきり言って分からなかった。

 何でジェルソミーナがここまでの仕打を受けながらザンパノを恋しがるのか。それは理屈に合わないではないか。恨みこそすれ、こんな最低のやつに惹かれる心持ちがどうにも割り切れない。

 そんな風に思っていたもんだった。理屈に合わないものは理解出来るわけがないと思いこんでいた。まあ、「たとえみんなが認めたとしても、私だけはこれを否定してやる」と言う自己陶酔が入っていたのは否めないが。

 やがて時が経ち、それなりに世間と折り合いをつけて生きていく事を覚えて、世の中には理解出来ぬ不条理さがあるものだと(身をもって)わかったし、監督の他の作品なども観るうち、いつの間にか監督のファンにもなっていた。

 それでいつか観直したいと、ずーっと思っていたもんだった。そしてそれがようやく叶って、つい先日観直した。

 …これが又。圧倒。どんなに辛くても離れられないジェルソミーナの心情ってものを思うに、なんともその薄幸ぶりが身に迫ってくる。

 金て買い取られ、暴力で“妻”にさせられたジェルソミーナは、その時点で確かにザンパノによって人生をボロボロにされている。それは確かだが、果たして彼女は不幸だったか?

 いや、多分この時点では決してそうではなかったと思う。なぜなら、彼女はそれに対して、“私は必要とされている”事を喜びとすることが出来た。

 ザンパノは粗野でどうしようもない男だが、私なら耐えていける。むしろここで自分の幸せを見つけていこう。と言う具合に気持ちを切り替えていたように思える。  ただ、その幸せには重要な一点がある。

 ザンパノが本当に自分を必要としていると言うこと、つまりは愛してほしい。と言うこと。ただ私のことを「好き」と言ってほしかった。それだけあれば、後は何にもいらない。そんなささやかな望みだったのではないだろうか。

 しかし、そんな望みさえザンパノは叶えてはくれなかった。平気でジェルソミーナを裏切るのみならず、彼女を全く見ようともしない。

 どんなになっても捨てることはできない。いや、捨て去ろうとは思わない。人はそんな心境になることがありえることがようやくわかってきた(実はこの感情こそがDVを助長するのだという事も事実だが)。

 一方、クイン演じるザンパノの考えと言うのも、やはりわかってきた。

 将来のことなど考えず、人の気持ちを分かろうともせず、それで自分は誉められて当然と考える。自分を傷付けようとする者には容赦しない。一見無責任で非道な男だが、実際は、これこそ理想的な男の姿として憧れる自分が確かに存在するし、こうやってしか生きていけない男と言うのもいるのだ。

 単に「最低」と言うのではなく、ザンパノは私の中にもいるのだ、と言う単純な事に気付いたお陰で、この作品の評価は全く変わってしまった。

 だからこそ、最後のザンパノの慟哭がこれほど心に響く。最後の最後にこの物語が、実はジェルソミーナではなく、ザンパノが人間性を取り戻すまでの物語として観られるようになる。そう考えると、これは一種のどんでん返し作品でもあるんだな。

 これは飾らぬ人間の心の奥底を描いた作品であり、魂のラブストーリーでもある。

 これだけの役を見事に演じ切ったマシーナとクインの二人にはいくらでも誉められる。『その男ゾルバ』(1964)の、粗野だが人情味あふれるゾルバ役も素晴らしかったが、やっぱりクインの代表作はこれだ。

 一方のマシーナ。これはもう、何かに取り憑かれたような、凄まじい演技力だった。  こう言う役を演じるのは、余程の演技力が必要のはず。ちなみにマシーナは大学教授の娘で、子供の頃から神童と呼ばれており、ローマ大学の文学部を卒業した才女…この作品では本当に10代に見えてしまった(笑)。

 本当に、二人ともよくぞここまでやってくれた!と言う見事な演技。

 それにここで用いられるニーノ=ロータによるスコアが又素晴らしかった。ラストでのもの悲しいラッパによる「ジェルソミーナ」は、しみじみとした名曲だ。

 …これは観直してみた、現時点での私の考え。それが前は全く分からなかったと言う自分の不明も感じさせてくれたが、今から10年後位に又観直したら、どんな驚きが待っているだろう?だから敢えて現時点で最高点は差し上げず(10年前は50点だったんだが)。楽しみがひとつできた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Bunge[*] ジェリー[*] TOMIMORI[*]

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