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[コメント] 宇宙人東京に現る(1956/日)

特撮場面は今見るとチープというか可愛らしいものだが、ドラマ部分の演出は、なかなかしっかり作られている。全編、引き気味の画角が見ていて気持ちがいいのだ。
ゑぎ

 冒頭は科学者の見明凡太朗が飲み屋「宇宙軒」(女将は岡村文子)に入るシーンだが、いかにも昭和の日本家屋の場面と対比するように、中盤から多くのシーンの舞台となる天文台の美術装置が良く出来ている。特に天体望遠鏡の装置が立派で驚かされる。

 唐突に人気ダンサー青空ひかり−刈田とよみのダンスシーンが挿入されるのも、この当時(50年代)の娯楽映画の趣きが良く出ている。それと同じように、日光東照宮や中禅寺湖での小旅行の場面挿入なんかも、この時代らしい。

 タイトルにある宇宙人はパイラ人と呼ばれていて、決してパイラ星人はでない、ということろも何かのこだわりが感じられる。円盤の中での彼らの会話は字幕で示される。宇宙道徳について語る会話も趣き深いが、地球人の理想の美人として、ダンサーの青空ひかりの写真が提示されるのには笑ってしまう。パイラ人が地球人に変身する機械は円形で、他にも円盤のフロアには回る輪っかの装置がある、といった円形モチーフの美術の統一は意識されてのものだろう。

 タイトルから、宇宙人による地球侵略が描かれる映画かとずっと思っていたが、彼らは良いエイリアンで、Rという天体が地球に衝突する軌道で近づいて来る、という『ドント・ルック・アップ』みたいな地球の危機を描いた映画なのでした。パイラ人たちは、これを防ごうと、支援のためにやって来たのだ。

 科学者として、見明の他に南部彰三河原侃二山形勲、そして南部の息子役の川崎敬三と出て来るが、彼らが各国へ呼びかけても(核使用含めて)、結局、地球人だけでは天体Rの軌道を変えることは出来ない、という絶望感もよく伝わってくる。終盤の、空を見上げる人たちに繋げて、犬も猫も空を見るカットを挿入したり、天体Rの光が赤い照明で描かれる天文台の人々の消沈した雰囲気なんかも厳しくて良い画面だ。動物は、他にも、蜘蛛、カラス、金魚、ウサギ、タヌキ、鳥、カニ、亀と出て来る。

(評価:★3)

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