[コメント] 戦艦バウンティ号の叛乱(1935/米)
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1787年、タヒチへ奴隷の食料パンノキの苗木求めて2年の行程と、すごいことがさらっと説明される。交易なのに戦艦が出てゆくポーツマス港。船長チャールズ・ロートンは出港前にさっそく死んでいる男を鞭打ちにする。船員はゴロツキだから恐怖で縛りつけるのだと云い、陸海軍条例に則り命令しているのだ、私は艦長であり裁判官で陪審員だと訓示する。
働きの悪い三人が10日間食事は半分。不満でもの蹴飛ばした音聞いてすぐ鞭打ち。号令で鞭打ちが突然始まるのが恐ろしい。鞭刑吏がいつも艦長の傍にいるのだ。罰で縄かけて船の底を引っ張り回して殺してしまうとんでもない件がある。船尾に擦られるときの人形の凍りついた顔が実に恐ろしい。ベストショットと云うべきかどうか。
刑務所の替わりに海軍に入ったものもいる。漕ぎ手のようで、ボート2隻に綱張って曳航している。『ポチョムキン』では蛆の沸いた肉だったが、こちらは生肉が出ている。罰でフランチョット・トーンを雨天にマストに登らせ、すると嵐になり、副艦長のクラーク・ゲーブルが彼を降ろすと、ロートンは勝手なことするなと再び昇らせる。往路ですでにゲーブル堪忍できず、帰国したら裁判と啖呵切る。
タヒチ到着、大歓迎。砂浜に黒山の人だかりで100艘ものカヌーが寄ってきて甲板はバナナなど贈答品で埋まる。ウィンウィンの交易らしい。島の酋長ヒチヒチはクックとも友人で艦長とも親しい。来なければ帽子を送ると云っていたとジョージ三世の贈答品もらっている。タヒチの風俗は面白く(どこまで本当なのか)網代わりの草で囲いこんで、手づかみで魚を収穫しており、なかには鮫までいる。船では虐待されていたコックが島ではやたらモテるといういいギャグもある。ゲーブルも島の女に抱きつかれちゃう辺りの解放性は、軍艦の閉鎖性との対照なのだろう。
パンノキの苗木積んで帰路、船医バッカスハーバート・マンディンが鞭打ちで殺されてゲーブルはついに叛乱を起こし、艦長派十数名をボートで放り出す。ここからロートンはやたら精悍になり、サバイバルを主導する。周りは人食い人種の島ばかりだから(本当?)とティモールに向かい、到着してしまう。彼の二枚腰は本作の見処。悪役は単純な悪役ではなく、そも艦長になるぐらいだから指導力はあるのだった。有事に強くて平時にだらしない人物を造形して優れている。
タヒチに戻って愉しく暮らしていたゲーブルらはクリスマスに英国船の到着を認め、妻子持ちを集めてバウンディ号で放浪、無人島に上陸する。この尻切れトンボの処理は感じがいい。彼を追うロートンが探し過ぎで岩礁に乗り上げて船を沈めてしまう件は、合成画面が上手くできていて迫力がある。部下は沈没しかけているのに警告のドラムを叩き続けている。イギリス軍も死んでもラッパを放さないのだった。
最後は裁判。タヒチ語の辞書づくりしている好人物のバイアムフランチョット・トーンは、裁判で死刑になったのだがコネで無罪になり軍に復帰している。史実なのかも知れんがこの収束の印象はとても悪い。一方、冒頭にゲーブル主導の強制徴募隊が酒場に集団で乱入して「喜べ、海軍に入れてやる」で強制徴募されたチビのエリソンエディ・クイランは、妻と別れて死刑にされたのだろう。収束は散漫でよく判らない。
「この叛乱を通じて英国海軍の将校と船員の間の相互理解が深まった」とOPに字幕を掲げるのがいかにも云い訳臭い。こういう云わずもがなの感想を押しつけるのは差し引いて観るべき昔の話法。撮影は仰角でマストを見上げるショットが格好いい。
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