中学１年の時に初めて自分で入場料を払って映画を観たのが、映画との長いつきあいの始まりだったと思う。その映画自体はさほど面白くなかったのだが、自分が少し大人になったような気がしたのを覚えている。

　以来、いろいろな形で映画と接してきた。映画館に通いつめた時代、映画に関する本を読みあさった時代、かと思うと半年も映画を観ないときもあった。少しずつ映画に関する知識が増えていくなかで、この映画の存在を知った。

　『ソドムの市』、監督はパゾリーニ。マルキ・ド・サドの原作を映画化したものだが、その壮絶な内容のため、もう日の目をみることは決してないだろうと思った。絶対に観られないと思うと観たくなるのが人情だ。この映画は私のなかで勝手に伝説となった。いつか観てみたい、それは私が映画を観つづけるうえでの究極の目標になっていた。

　ＴＶ放映はあり得ないだろう。75年の発表以来、ビデオ化の噂も聞かない。ひょっとしたらどこかで自主上映でもしているかもしれない。情報誌の映画欄を隅々まで眺めたものだ。

　ところが世紀末の94年にビデオ化される。私の念願は、あっさりと叶ってしまった。

　批評や感想は書けない。CinemaScapeの一コメンテータとしてあるまじき行為かもしれないが、この作品だけはご勘弁いただきたい。『ソドムの市』だけは「観た」という事実が私には重要なのだ。

　作品を鑑賞してから８年半が経った。CinemaScapeに参加し、コメントを書いたことで、ようやく私のなかでひとつの区切りがついたように思う。さて、次の目標は何にしようか？