コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 大脱走(1963/米)

数多い収容所ものの作品の中でも最高作品。物語、設定、演出、キャラクター全て完璧。私にとっても最高作品の一本です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ところで収容所ものって、ジャンルとしてはかなり狭いはずなのに、何故こんなに好まれるのか。その理由というものを考えてみたい。

 一つ目は収容所というのは理不尽なことがまかり通る場所なので、極限状態における人間性を主眼とする事が出来ること。二つ目は仲間がくっつき合っているので、一人一人の描写がしやすいこと。キャラクターを立たせ易いのは映画では大きな利点だ(それに特化したのがワイルダー監督の『第十七捕虜収容所』(1953)だろう)。第三に目的意識を持たせ易いこと。収容所の姿を見た途端、視聴者の方は、「これは脱走に向けてのはなしだろう」と思ってくれる。

 …こう見てるとかなり利点は多い。しかし、何より一番の利点は、大作にしても、結構金が節約できる。この点にあるのではないか?収容所ものは金食い虫の戦争映画にあって、例外的に金を遣わずに済むのだ。理由はいくつかあり、派手なドンパチがないこと。広い地形を使う必要がないので、ロケは最低限度で、その多くはセットで撮れること。人数が限定されること。等々。

 名作になる確率が割合高く、戦争を演出できて、しかも金が(比較的)少なくて済む…多くなるのは当然だろうな。

 その中での名作だけあり、本作の完成度は非常に高い。ドラマ性、キャラクター、設定に至るまできっちりと作り上げてくれている。

 ストーリーにおいては、言うこと無し。トンネルを掘るというアイディアはよく使われるにせよ、トンネルに名前を付けて愛着を増すとか、困難な状況でゲーム感覚で捉えるのが面白い(いかにもアメリカ映画とも言えるか)。その中でのトラブル。そして脱出後の個々の行程に対する緊張感と、期待感、そして絶望まで目を離せない展開を見せてくれるし、それぞれのキャラクターも実に立っていた。それに、失敗をちゃんと描くことも忘れてない。ちゃんと伏線まで用意しておいて失敗させるなんてのは、私のような皮肉な人間が観ても脱帽もの。

 派手な演出と地味なストーリー展開をバランス良く詰め込んだ演出も良い。結果的に、その殆どは脱走失敗するのだが、何故か虚しく感じず、すがすがしくさえ感じる。これは演出の巧さによるもの。本作は脱走そのものが重要なのではなく、その過程の方を重要にしたためだろう。その中で生まれるアイディアや友情などが、虚しさを感じさせなくしてる。勿論スタンダードナンバーとなったテーマ曲の存在感も大きい。

 設定においても特記すべきだろう。例えば冒頭。ドイツ軍は複数のの軍隊を持っている。その中で最も力を持ったのは伝統的なドイツ国防軍と、ナチス親衛隊である武装SSである。通常我々はドイツ軍=SSと思ってしまいがちなのだが、実はあれはそもそもヒトラーの親衛隊から始まったものであり、個人的な組織に過ぎない(更に言えば、SSは極めて細分化されており、軍隊として機能しているのは武装(ヴァッヘン)SSと呼ばれる)。影に追いやられた形になった国防軍もちゃんと機能している。冒頭のシーンで違う軍服を着たドイツ軍兵士が、違う敬礼をすることで、二つの軍隊があることが明確に分かるように出来ている。しかもSSは冷徹で残忍さを、国防軍は職業軍人としての節度と、どこか血の通った部分を。あの敬礼のシーンだけでそこまで見せてくれる。更にこれがラストで意味を持つ。SSに捕まった仲間達は問答無用で銃殺されているのに、国防軍に捕まった二人の捕虜は生き残ってる。きっちり設定がはまっていて、伏線が出来ている証拠だ。設定マニアとしては感涙ものだよ(笑)。勿論設定面においてはこれだけに留まることはない。軍服をスーツに改造して、それが裏目に出るシーンがあるけど、あれだって軍服の設定がしっかりしてるから。英語とドイツ語の使い分けも巧いもんだ。設定面に関しては文句なしの出来。

 それとやはりキャラクターの立たせ方もある。中でもマックィーンの格好良さは凄いものがある。最初からはみ出しものっぽい雰囲気を漂わせつつ(『荒野の七人』(1960)のヴィン役そのままって感じはスタージェス監督も狙ってのことか?)、脱走した時はまさにヒーローそのまんまの活躍をしてくれるし、最後の最後に、悔しそうな、それでもやるだけやったと言う満足感をほのかに浮かべて苦笑いするような表情も良し。

 改めて書いてみると、本当に良い作品だったと思える…やっぱリマスター版、劇場で観るべきだったかなあ?

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus jean Myurakz[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。