[コメント] 敵、ある愛の物語(1989/米)
神は細部に宿る。疑いの余地のない時代描写と情景描写。目を開いてどこまでもみつめようという真摯さがなければ細部は描けない。うそっぱちでない世界がここにある。
タイトルロールが流れ出した段階で、すでに虚構構築の緻密さが感じられる。なんていうと大袈裟だけど、細かいところがしっかりつくられているから、すんなり「その世界」に入り込める。
通行人がセットの中を歩いている。ただそれだけで、ほれぼれするほどの饒舌さで背景や情景が語られてしまう。
ホロコーストのトラウマをもった登場人物たち。いろいろな形でトラウマは人々のおだやかな暮らしをゆがめてしまう。だけどここでは、ホロコーストの罪を暴くわけでもなく、ナチスは怖い怖い怖いと絶叫するわけでもない。そんなことは映画でやる必要はない。
登場人物は、ホロコーストによりこじれてしまった気持ちの海の中をただたゆたう。こじれは日々の生活の表面に浮上する。そして人との関係がよじれだす。かれらはよじれこじれのしわ寄せに悩み、踊らされ、ときにはしっぽを巻いて逃げ出さざるをえない。情けなかったり、醜かったり。言い訳したり、自分をごまかしたりいつわったり。
だけど、そんな弱さに向き合うことでしか、見えないものがある。と思う。
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