[コメント] 五人の斥候兵(1938/日)
しかし、あれ(キルゴア中佐)に比べれば、ずっとまともな、いや思いの外、部下思いの人間的な人物として描かれている。そういう方向性の映画だ。
城門。上に小さく人(兵士)が見え、日の丸を掲げる。これをクレーン上昇移動して見せる。この城門は小杉隊が占拠した一時的な駐在地の目印になる。本作はタイトルの通り、この駐在地から、近辺の敵の動向を探ることを命じられた偵察メンバー(斥候)5人のプロットがメインと云えるが、それは中盤以降だ。前半は、兵隊たちの、苦しい中にも和気あいあいとした軍隊生活の描写が印象づけられ、後半は斥候兵のプロットと同時に、駐在地で5人の帰還を待つ兵士たちがクロスで描かれる。とりわけ隊長の小杉勇が最も目立つ、全き主人公だ。
5人の斥候兵は、見明凡太郎が軍曹でリーダー。以下、井染四郎、伊沢一郎、長尾敏之助、星ひかるといったメンバーだ。草原を走る5人を横移動で見せるショットだとか、葦の茂る小川の中を行く姿を前進移動で見せたりとか、カメラは縦横無尽に動いてよく見せる。敵兵は遠くに小さく映る。いきなり銃撃された後は戦闘に。最も驚かされたのは、敵のトーチカ内から撮影された、トーチカの四角い穴(銃眼穴)から走る斥候兵たちを撮ったショット。あるいは、葦の茂る中で敵兵を銃剣で刺す場面は、まずは敵兵を見せない演出で、やゝあって、川の中に流れていく死体を見せる。さて、斥候兵5人の内、何人が生きて城門のある駐在地へ戻れるか。
既に肌理細かな演出例はいくつか書いたけれど、本作は前半から実に豊かな技巧の数々を指摘できる作品だ。これにも驚いた。もっと粗削りの武骨な映画かと思っていたのだ。例えば、銃剣のアップからトラックバックして隊長の小杉が訓示するのを見せるといったショット。パンやティルトでロングショットに繋ぐカメラワークの頻出。序盤で星ひかるが西瓜と家鴨をどこからか調達して来る場面での、家鴨のショットからそのムシリ取られた羽のショットに繋ぎ、さらにパンして鍋を映すといったユーモアのあるカメラワーク。そして、要所要所で反復される小杉と兵士たちの顔アップの切り返しや、見明が小杉の書いた日誌を読む場面での、ツーショットのポン寄りの繋ぎなんて部分も、観客の感情操作に実に効果的な演出と思う。
最終盤の隊長訓示では「東洋の平和、アジアの平和」という大義を謳い、「俺と一緒に死んでもらいたい」と云う小杉。総攻撃に向けて城門を出発する兵士たちを「海ゆかば」の劇伴とともに、クレーン撮影と思われる俯瞰の移動で見せるショットは、とびっきり厳かな趣きを演出するが、全体に、私の心性で今見ると、これで戦意高揚を亢進する観客は、もともとそういう心性の持ち主だろうと思われる。
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